想い出は風の彼方に(113)

さらに綾子は話を続けた。
「先ずはこの建築コストの高騰が何時まで続くかです。まあ5~6年は我慢する必要があるんじゃあないですか。それを踏まえて部分的なリニューアルを立案すべきだと思うのです。じゃあ何処をどう直したら良いのか、それが問題です。病院の全体像を明るくする為には先ず、外壁の塗装は不可欠でしょうね。私はクリーム色の温かみのある色が良いんじゃあないかと思うんですが…それに病院内部の壁紙も全面的に取り替えたいですね。もちろんカーテンも替えるべきでしょう。そして廊下ですよね。先ず床材は補強程度にして、はめ込み式のカーペットを敷き詰めて行く方法だってありますでしょう。基本的には業者に頼むのでなく、なるべく職員全体が一丸となってやれば材料費だけで済みますし…病院に対する愛着心も芽生えるんじゃあないですか。エアコンは全面的な取り替えが必要でしょうね。それでも業者任せではなく、家電の量販店で大量に仕入れる事により値段を安く抑えるべきだと思うわ。前の会社の知人に建築コーディネーターもいますから、専門的な相談はその知人に頼むとして…もちろんそれなりの謝礼は必要ですが、それでも大手の工務店に頼んで全てを任せてしまうよりは安く済むはずよ。車の修理だって、そうでしょう。正規のディラーに頼むよりは、町の修理工場に頼んだ方が半分近い値段で済むと思うわ…違うかしら。それと同じ様に、カーペットは町のカーペット店か、家具の量販店で安い物を買い叩くべきでしょう。
その様に一つ一つを小まめにチェックして、どうやったらお金をかけずに病院のリニューアルが出来るか皆んなで検討して行けば、かなり安い費用で目的は果たせると思うのですが…どうでしょうか」
綾子の独壇場的な発言を聞いて、浩司も事務長も目を丸くするばかりだった。これが自分の妻なのか、改めて彼女を見直した。
「なる程…それなら、かなり安くリニューアルする事も可能でしょうね。これまでは大手のゼネコンに任せる事しか考えていませんでしたから…確かに奥様の言う通りに自分達が手作りでリニューアルする為の意識改革をすれば経済効果は言うまでもなく、病院に対する愛着心も職員全体に芽生えて来そうですね」
そう言って事務長は、大きく頷いた。浩司も笑顔で賛同したが、
「しかし、日々の業務だけでも忙しい病院スタッフにそんな協力を頼めるかな?」
彼は当然とも言える疑問を投げかけた。綾子は笑みを崩さずに、
「それが一番の問題です。どうやって職員の意識改革をすれば良いのか…先ずは自分達の病院を自分達の手で作り上げて行くんだと云う達成感の様なものを共有して行けるかに掛かっているのでしょうね。それには幾度もスタッフミーティングを重ねて、自分達が働く職場を少しでも快適な空間にしたいと云う思いを強くして行ける様に、心を通わせる努力をするしかないわ」
「まあ綾子のアイディアは素晴らしいが、事はそんなに単純なものではないだろう…」
浩司はさらなる疑問を呈した。
次回に続く
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