想い出は風の彼方に(116)

「綾子、お前にそのコーディネーターの当てはあるのか?」
「今回、色々と相談に乗ってくれた人が病院の仕事を手伝ってくれるかどうかは分かりませんけど、私なりに頑張って探して来ます。後は病院側で、どなたを総務担当にもするのか、その人事はお願いします。私もこんなお腹ですから実際の役には立てないと思いますわ」
綾子は自分のお腹をさすりながら答えた。
「そうだよな、お前の出産予定日まで後2ヶ月もないからな。何とか1ヶ月ぐらいで建築コーディネーターを探してもらって、増改築のプランを早いうちに立てないとな…そうそう事務長さん、銀行の融資は大丈夫なんでしょうね」
事務長はニッコリと頷いて、
「今の様な好景気の時代は、銀行は融資先を懸命に探していますから、この病院の様に堅実な経営をしている病院なら幾らでも貸してくれますよ。先日も菱山銀行が来て、10億円ぐらいの融資を何とかさせてくれないかと言って来たばかりです」
浩司は目を丸くして、
「銀行からの借入れって、そんなに楽なんですか?」
事務長は少し得意気に…
「楽なんてもんじゃあないですよ。少しでも業績の良い所なら、『お金を借りて欲しい』の大合唱ですよ。不動産が馬鹿みたいに値上がりしているんです。数年前までは2DKの団地が1千万円前後だったのに、今では2千万円はおろか3千万円の値段だって付く時代なんですから、こと不動産にしては正に狂乱物価と言えるぐらいです。うちの病院だって1800坪からありますからね、全て借地なんですがね…それでも必要なら銀行は幾らでもお金は貸してくれますよ。旧借地法ですから、自分の土地と変わらないんです。こちらの意志で100年以上でも借りたままでいられるんですよ。土地の借地料にしても固定資産税に毛の生えた様なもので、自己所有の土地と何んら変わりはないんですよ。ともかく今は不動産を持つているものが強いんですよね。お金ではなく、アイデイアと事業の企画力が試される時代なんです。お金なんかどうにでもなるんです」
「そうなんですか、うちの親父なんか戦後の引き上げで土地も金も無く、事業展開には相当苦労していましたがね」
「それは昭和20年代から40年代ぐらいの話でしう。昭和36年から国民皆保険になりましたから、病院や診療所に駆けつける患者さんは急激に増えたのです。この昭和30年代から40年代と云うのほ医療業界の最盛期ですよ。この時代、不動産は買った者勝ちなんですよ。病院も拡張して不動産をより多く所有すれば、経営自体トントンでも土地の担保能力がウナギのぼりでしたから、銀行は幾らでもお金を貸すのですよ。病院が経営破綻に陥るのは、後継者問題と病院以外の事業に多大な投資をした場合だけです。何しろ患者さんは増える一方ですし、医療保険制度ですから貸し倒れなんて発生しようもないのです。こんな安全な事業は他にないですよ。だから銀行は病院だと云うと目の色を変えて融資をさせて欲しいと日参して来るのです」
そう得意気に事務長は説明した。
次回に続く
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