想い出は風の彼方に(122)

「綾子の言う通りだ。常識的にはね。でも借金をしているのは俺じゃあない。医療法人のさくら町病院だ」
「でも、その連帯保証人になっているのは理事長のあなたでしょう。つまり病院の赤字はあなたの責任になるって事よね」
「その通りだ。借金の返済義務は理事長である俺にある。でも俺が破産宣告したらどうなる。病院は競売物件になって、何処かの医療法人が買い取る形になるだろうな。俺は銀行預金も含めて全ての私有財産は管財人に取り挙げられるだろう。そして理事長と病院長は解任されるだろうな、それだけの話だ…」
綾子には浩司の、その淡々たる説明がまるで理解出来なかった。
「それだけの話って…つまり私達は丸裸になってしまう事ってじゃあない。それで私達はどうやって生活して行けるというの」
「生活なんて、どうにでもなるさ。今と同じくらいの地味な生活なら楽勝だよ。まあ、俺に任せておけよ。お前と子供達に苦労はかけないから大丈夫だよ」
「そんな事を仰っても今の病院を建てる時も、病院倒産の危険度は10%ぐらいだから心配するなって言わなかった!…それが10億近い借金を重ねて2年も赤字経営を出して、それでも大丈夫だなんて言われたって心配でならないわ…」
「俺もこの事では弁護士と税理士に色々と相談しているのだよ。その結果、俺の中には秘策が出来たのだ。今はまだ詳しくは語れないが、ともかく智美の大学の事は心配するな…どうにでもなるから」
綾子は、
「ハッ」とした表情になって、
「まさか、あなたお父様の財産を当てにしているんじゃない…」
「ハッハァ、ハッハァ、何を言い出すかと思えば…今更、親父の金なんか当てにするかよ。俺も50才を過ぎているんだ…お前も妙な取り越し苦労をするな。ともかく俺の給料は当初の年収に戻す。次にお前は事務長にして、年収をそれなりの待遇にする。どうだ、これだったら智美を医学部に行かせるのも難しくはないだろう」
「それなら、私大の医学部の月謝だって払えるわね。そうなると病院の借金は雪だるま式に膨れ上がるわよ、それでも本当に大丈夫なの」
「全く心配はないよ。借金なんて何も恐れる事はないさ…銀行との巧妙な掛け引きは必要となるがな。その事は実戦を通じて徐々にお前にも教え込むよ。ともかく俺に任せておけ。智美を医学部に行かせる事なんて、どうって事はないよ」
綾子は未だ心配そうに、
「本当に大丈夫なの?」
と、念を押して来た。
「少なくても銀行から融資が受けられる間は、大丈夫だ」
「その融資が受けられなくなったら…?」
「市中銀行が融資を止めたとしても、商工中金とか日本政策金融公庫とか政府系の金融機関から融資を受ける方法だってあるさ…」
綾子は驚いた風に
「そんな情報を何処で知ったの?」
と、尋ねて来た。
次回に続く
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日本語の起源・言霊百神