想い出は風の彼方に(123)

「まあ、医師会あたりでも色々と教えてくれるんだ。今は日本全体が不況の真っただ中だから、国も中小企業の倒産を防止しようと必死なんだ。そんな状況下だから、出来る限り低金利で時には無担保でも融資してくれるらしいよ」綾子は信じられないと云った表情で、
「無担保って…何の事?」
「いや何でも融資してくれって意味ではなく、それは過去数年間の事業内容を見てからの事だけどな。今の不況の嵐を乗り越えれば、融資額を返せる企業であるかどうかの判定基準はあるらしいがね」
「そう云う意味なの…いずれにしても景気の悪いのは病院だけではないのね」
「そうだよ…バブルが弾けて以来、不動産業を始め建築業その他で倒産している業者は幾つもあるよ」
「そう言えば、新聞でもテレビでもそんなニュースは毎日流れているわね」
「だろう、だから政府が先頭に立って中小企業への融資対策を積極的に進めているんだ。医療機関も年々赤字を出す所が増えているしね…」
「でも高齢社会で、患者さんはどんどん増えて行くはずなのに、どうして病院ベッドの空きが増えるのかしら…?」
「それはバブル以前は老人医療費は全額公費で賄われていたんだ。それが高齢者の増加で、公費では追いつかなくなって来たんだね。それで自己負担分を1割に、所得に応じては3割にまで上げ更に病院での食費負担まで個人負担にしてしまったんだ。それやこれやで高齢者と雖(いえど)も1ヶ月の入院による自己負担額が10万円を超えたりする事が多くなって来たのだ。それも公的年金で支払い切れる間は良いのだが、中には子供の世代で不況の波に呑み込まれ失業する人も出て来たりして、そんな親の年金を自分達の生活費の一部にする人さえいるんだよ。そうなると、以前の様に経済的な理由から親が肺炎になっても入院させないと云う子供達だって存在するのだ」
「へえ、随分と酷い話なのね」
「ともかく国は医療費を少しでも縮小させたいと願っているから、2年に一度は薬剤費を大幅に減額させたり、介護保険制度を作り高齢者は出来る限り病院に入院させない方針を露骨に打ち出しているのだ」
綾子は心配気に、
「それでは病院の経営に未来は無いって事なの?」
浩司はゆっくりとした口調で、
「そんなに悲観する事ばかりでもないだろう…」
「どうして?」
「それは経済的事情で入院しない人がいるかもしれないが、逆にもっと快適な医療を望む人が一方には増えているのだ。つまり、これまでの様に社会保険制度の中でしか考えなかった医療行為を、もっと社会的なそして経済的なニーズに合わせて提供する発想が必要になるのかもしれない」
「どんな風に?」
「まだ考えが纏(まと)まっている訳ではないが、病室にも個室や特室がある様に、リハビリなどにも経済的事情によりサービスの提供に変化があっても良い様な気がするんだ。ともかく現在の均一化した医療行為には何処か制度疲労の様なものが生じている気がしてならない」
次回に続く
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