哀しみの果てに(8)

しかし、信吾は次第に自分の親達の不甲斐なさが哀れに思えて来た。父親は50才を過ぎて、大学も2年で中退になり最終学歴は高卒でしかない。それでも途中から独学で勉強して「地方公務員初級職」に何とか合格した。そこまでは認められる。しかし、それ以降はキャリア・アップする為の努力も勉学もまるでやっている気配がない。狭い公団住宅に甘んじ、一人息子の信吾を大学に行かせる気力もなく毎日を蟻の様に過ごしている父親には何を相談しても意味のない事は分かっているはずだったのだ。信吾は改めて自分の父親の不甲斐なさを認識した。やはり、こうなったら自分が祖父の介護をするしかないと考える様になって来た。これまでも信吾の将来に、何か希望的な意見を言った事もなく毎日の生活に何の波風も立てない事が、生き甲斐の様な父のだった。祖父に対しては例え相手が自分の父親でもあっても、自分の生活には何の変化も与えたくはなかったのである。大して自分の父親に愛情も感じていなかったのであろう。その点、信吾は違う。やはり、あの旧豪邸で遊ばせてもらったと云う記憶は僅かに残っているし、没落してからも祖母の隠れた3千万円の定期預金が出てきてからと云うもの、親に隠れて小遣いも幾度かは貰っていた。
あれこれ考えると、この祖父の面倒を見るのは自分の役目ではないかと思えて来る。そんな考えから信吾は伏し目がちにちに両親の目を見た。
「なんだったら、俺がおじいちゃんと一緒に生活をしても良いよ」
彼の両親は驚いた様に、
「お前がか?」
と、聞いて来た。信吾は少し不貞腐れた様に…
「だって、今の場合は俺しかいないだろう。何の定職もなく、その日暮らしのバイトだけで生活しているんだから…」
父親は信吾の機嫌を取る様に、
「しかし、年寄りの面倒は大変だぞ。ましてあの親父は我儘育ちだから…」
「そうかな、俺はじいちゃんが苦手じゃあないぜ。結構憎めない所もあるし…それにしても何時からボケ始めたのだろう!…全然気が付かなかったな。そう言えば、この数ヶ月はバイトで忙しく、じいちゃんの所には全く遊びに行ってなかったからな…」
「そうね、私たちも近頃はお父さんの所にはまるで顔を出していなかったわ」
と、母が少し申し訳なさそうに言った。
「それは俺も同じだ。毎日の仕事があるから、そう頻回に親父の所に顔を出すと云う訳にも行かないだろう」
「それにしたって、実の父親が年を取って一人暮らしをしているんだから、月に1、2度は顔を出すべきだろう。大体、親父なんかプロ野球の観戦には月に一度ぐらい行っているじゃあないか?」
「馬鹿、それは付き合いってもんだ」
「何の付き合いか知らないが…」
父親は、それ以上は何も言い訳をしなかった。母親もその事に関しては、何の口も挟まなかった。
信吾は、さばさばした口調で…
「明後日は俺が病院に行って、じいちゃんの退院をさせて来るよ。そして、じいちゃんのアパートでしばらくは一緒に暮らすさ」
次回に続く
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