哀しみの果てに(13)

医師の指示書に従い、祖父は臨床心理士室に通され長谷川スケールの再チェックを受けた。その結果は24点だった。その後にはMRIの頭部撮影も受けさせられた。検査後、その日は自宅に戻り一週間後に再受診となった。先週の担当医は、MRIと長谷川スケールの結果を幾度も照らし合わせ悩み抜いている様子だった。そして次の様に切り出した。
「この半年の間に、何か変わった事がありませんでしたか?」
「いや、別に…ただこのままだと足腰がどんどん弱って行く様なので、無理矢理に散歩へ連れ出したりはしていましたが…それ以外には何も」
医師は信吾の回答に納得せず、
「本当に散歩だけですか?」
と、再度尋ねて来た。
「それは、どう云う意味ですか?」
今度は逆に信吾が聞き返した。医師は少し言い訳じみた物言いで、
「実はですね、認知機能が驚く程に向上しているんです。何か私には分からないサプリを服用していたとか、単なる散歩以外には本当に何もしていなかったのですか?」
信吾は、その医師の発言に驚きを隠し切れず…
「認知症に関する薬やサプリは一切使用していません。大体そういった薬はともかく、サプリってかなり高いって聞いていますし、家は貧乏ですからそんな物を買う余裕もありません」
「そうですか、そうなると検査の手違いの可能性があるかもしれませんね。それ以外に長谷川スケールが半年で13点から24点にまで上昇するなんて考えにくいですから…アメリカでアリセプトを20mg(日本での使用量の倍量を使った報告はありますが、認知機能は改善されてはいません。むしろ悪化している報告の方が多いのです」
信吾は訝し気に尋ねた。
「長谷川スケール13点から24点って、そんなに凄いのですか?」
医師は少し自分の感情を抑えながら、
「どんな認知症専門医でも、こんな症例を経験した医師は殆どいないでしょう」
医師の声はかなり熱を帯びて来た。
今度は信吾が聞き返した。
「それでは認知症は治ったと云う事ですか?」
「そうは言ってませんが、認知症が大幅に改善したと云うのは事実です。生活上の変化もかなり向上して来たのでしょう。排便や排尿も殆ど間違いが、なくなっているのですか?」
「そうなんです。以前よりは、ずっと手がかからなくなっています」
「そうお聞きすると、長谷川スケールが13点から24点にアップしたと云うのは、検査ミスではなく、正しい検査結果だと考えた方が納得がいきますね」
「そうなんですか、矢っ張り祖父の認知症は良くなっていたんですか!」
「そう言わざるを得ませんですね」
医師は渋々ながら頷いた。信吾は率直な質問を、もう一度医師に投げかけた。
「認知症って、そんなに直ぐ良くなったり、悪くなったりするもんですか?」
医師は腕組みをしながら、懸命に自分の考えをまとめようとしていた。そしてポツポツと答え始めた。でも、その答えは信吾の耳には唯の言い訳にしか聞こえなかつた。
次回に続く
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