哀しみの果てに(22)

次の火曜、指定された書類を全て持参して信吾は再び祖父のいる老人ホームを訪れた。介護課長は彼の書類を一通り見て、
「結構です。採用条件には十分に合致しています。それでは、いつから来れますか?」
「いつからでも勤務は可能です」
「それでは今は9月も終わりに近いですから、10月1日から勤務開始と云う事で宜しいですか?」
「はい、それでお願い申し上げます」
「では、10月1日と云う事で決定させて頂きます」
「当日に何か持って来る物はありますか?」
「いいえ、制服等はこちらで全て用意しておきますので、そのままでお出で下さって大丈夫です」
「何時頃までに来れば良いですか?」
「そうですね、初回ですから朝の8時半までにはお越し下さい」
「分りました、その様にいたします。何分にも全くの素人ですから宜しくお願い申し上げます」
「大丈夫ですよ、あなたなら直ぐに慣れますよ」
そう言って介護課長は信吾を励ました。
10月1日の朝8時過ぎには信吾は老人ホームに着いた。これまでの転々としたコンビニのパートではなく定職として介護の仕事に就けるのかと考えるだけで、自分の未来は開けそうだった。8時15分、介護課長が出勤して来た。信吾を制服に着替えさせ、各部署に彼を紹介して回った。僅か1時間足らずで何度「お願いします」の挨拶をして回ったか数え切れない。午前中一杯は介護課長が彼に付き切りで、仕事の手順を教えてくれた。早出は朝7時から午後4時までで、1時間の昼休みがある。遅出は朝10時から夜7時までで、やはり1時間の昼休みが入る。それ以外にリーダー業務が月に何回かあって、この勤務時間は朝9時から午後6時までで、同じ様に昼休みが1時間入る。そして夜勤である、これは午後5時半から始まって午前9時半までである。仮眠は1~2時間許されているが、一人で25人の入居者が担当なので仮眠などは出来るはずもない。この夜勤手当が一回に5500円である。具体的な話を聞くだけで、これはコンビニよりは辛い仕事の様に感じた。そして最初の一週間は介護見習いと云う事で、ベテランの介護士について一通りの経験をしてもらう事になっているとの話だった。この一週間の見習い時期は時給が850円だと説明された。これだとコンビニより仕事は厳しく時給も安そうだ。
朝8時過ぎに出勤して来た信吾の気負いは、早くも挫けそうだったが、給与が目当ての仕事ではないと自分自身に言い聞かせた。
ともかく今は、介護の専門性を身に付ける事が一番だと、己を叱咤激励するしかなかった。この日は仕事らしい仕事は殆ど無く、オムツ交換の仕方とか、入浴介助の仕方を中心に指導を受けた。食事介助の仕方も教わったが、これは祖父の時の経験が役に立った。夕方5時過ぎ帰る間際に介護課長から呼び出された。
「どうですか、この仕事を続けられそうですか?」
と、尋ねられた。
「はい、頑張ります」
としか、答え様がなかった。
次回に続く
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