診察室からコンニチハ(6)

私たちが認知症患者さんを診る上で、最も注意しなければならないのは、高齢に伴う多くの疾患です。食欲不振で認知症が悪化して来院した90歳の女性に、大きな胃潰瘍を内視鏡で見つけた事もありました。この女性は胃潰瘍の治療で、食欲も改善し認知機能も著しく向上しました。認知症がある程度進行しますと、胃痛や腰痛などの自覚症状を明瞭に訴えられない事が多いのです。さらに痛みに対する感覚も鈍麻するようです。この為に多くの疾患が見落とされやすくなります。レビー小体型認知症と診断された81歳の男性で、甲状腺機能低下症が見つかったケースもあります。この患者さんの奥様は75歳で心身共に健康的な人で、私の診断に不信感を強くしていました。ご主人の診断は著名な大病院での診断でしたから、名もない小さな病院の医師ごときが何を言っているんだとの苦言を呈されました。もちろん直接的にこう云う表現をなさった訳ではありませんが…しかし、そのお顔にはその様な不信感が満ち満ちていました。ともかく私は根気良く、甲状腺機能低下症の治療をさせて欲しいと説得しました。
私の強い説得が何とか功を奏し、奥様の了解の下で甲状腺剤の服用が開始されました。効果は1ヶ月もしないうちに出て来ました。手の振るえは収まり、顔に生気が戻り認知機能は大幅に改善しました。これは正に「怪我の功名」とも言えるケースだと思います。その大病院の医師が、甲状腺機能の検査を怠っていたなんて事は通常あり得ないのですが、「弘法も筆の誤り」だったのでしょうね。いずれにしても、医師と雖(いえど)も人間ですから間違いはあるのでしょう。かく云う私も、過去には色々と苦い経験はあります。
それ以外にも慢性心不全や呼吸不全などに起因する息苦しさ、さらに変形性膝関節症による疼痛、前立腺肥大による乏尿もしくは頻尿(その結果としての尿失禁)、数えあげたら切りが無い程の疾患を抱えているのも高齢者の特徴です。それら高齢者の息苦しさや疼痛を理解せずに、何でも認知症のせいにされては堪りません。
また各種癌の発生頻度も加齢と共に増加します。加齢による癌の発生頻度も参考までに記述します。
55~64歳 : 8~25%
65~74歳 :25~55%
75歳以上 :55~75%
との報告もあります。
次回に続く
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