診察室からコンニチハ(8)

では私の日常の診察風景から、ご紹介しましょう。初診の患者さんの場合は、先ずは頭部CTと長谷川式認知症スケールを受けてもらいます。過去に脳梗塞の既往があるのか、それ以外には脳萎縮の程度などもチェックさせて頂きます。もちろん正常圧水頭症の有無なども見させて頂きます。そして患者さん自身の診察となります。同時に「お薬手帳」なども拝見させて頂きます。高血圧、糖尿病、高脂血症などは言うに及ばず、甲状腺機能障害の有無、喫煙、飲酒なども調べさせて頂きながら、認知症の診断を進めて行きます。「物忘れ」の程度や幻覚、幻視、被害妄想、徘徊などのチェック項目もあります。初診ですと、どんなに急いでも30分以上はかかります。そして重要な事は患者さんとの人間関係を円滑に築いて行ける様に「声かけ」や「視線の合わせ方」にも神経を使います。高齢者の聴力障害は高音域から来ますので、出来る限り丁寧に低い口調で話す様に努めます。患者さんを急かせる様な態度は戒めるべきです。医師と患者と云うよりは、同じ人間同士の会話で診断を進めて行けるのが理想ですが、なかなか理想通りには行きません。先ず会話の糸口は、
「お名前を教えて頂いて良いですか?」
と、私から尋ねます。そして直ぐに
「私は成川と云う医師です。何かお困りの事があれば、お役に立ちたいのですが?」
と、自己紹介をします。問題は、ここからです。患者さんが、どの様な反応を示すかで病気の方向性が見えて来ます。
「名前…?それを聞いてどうする。
だいたい俺は病気なんかないんだ。医者なんかに用事はない!」
「分かりました。ともかく血圧だけでも測らせて頂けますか?」
「嫌だ、俺は帰る」
ここまでの反応が見られますと、私の頭に浮かび上がって来るのは「ピック病」です。
すでに記述しました様に、ピック病は40~60代と比較的若い世代が発症する「初老期認知症」の代表的疾患ですが、病気発症の早い時期には認知障害も認められず、何か最近は怒りぽっくなって来たなと思う程度の事もあります。しかし病状がさらに進むと、万引きや猥褻(ワイセツ)行為、さらに暴力行為などが出たりすると警察の厄介になります。警察も「ピック病」の認識がないと、そのまま留置場送りになります。こうなると、ご本人も家族も悲劇的です。たまたま、この異常事態は病気のせいではないかと家族の方が気付いて病院に相談されれば良いのですが、世間体を嫌って放置されているケースもあります。これは私の想像ですが、この様に家族からも世間からも放置された方の中にはホームレスの人たちも多分に混じっているのではないかと、考えたりもします。「ピック病」に限らず、認知障害の人たちも含めてですが…
次回に続く
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