診察室からコンニチハ(18)

しかし一般的に言って、臨床の現場は地道な所です。脳トレにしても在宅での習慣化に辿(たど)り着くだけでも大変な努力を必要とします。訪れる外来患者さんの3割は、全く自宅で脳トレが出来ていません。ご家族の支えがないのが大きい理由です。月に一回訪れる外来で私一人が、患者さんへの脳トレを頑張ってみても効果は期待出来ません。脳トレと云うのは日々の積み重ねですから、患者さん自身の意図よりはご家族の励ましと褒め言葉が重要なのです。誰しも褒められて不快な思いをする人はいません。ただ一口に褒めると云っても、あまり態(わざ)とらしい褒め方は嫌味にも響きますから、それは赤ん坊がハイハイから掴まり立ち出来る様になった時の様な真の喜びが必要です。口先だけの褒め言葉では意味をなさない事が多いかもしれません。80歳を過ぎた親の認知機能が少しずつ向上して行く姿は、時に感動的ですらあります。それを当たり前と考えるようでは身も蓋もありません。
その一方で、あまりに生真面目で「こだわり」が強く逆に神経過敏になっているご家族もいます。
「3ヶ月も毎日、脳トレをやって来たのに全く進歩する気配がみられない」
と、焦りを感じて脳トレに不信感を持ち出すのです。受験勉強ではないのですから、結果を急ぐ必要はないのです。それよりは親子の絆を少しでも固くする事が重要なのです。その絆によりお互いの心が開け、脳細胞の動きも徐々に活性化して来るのです。リラックスした心のゆとりが脳細胞に良い刺激となるのです。認知機能の低下が進む程に脳細胞の再生も悪くなると言われています。つまり、それだけ脳細胞の鈍化が進んでしまっているからです。その意味では認知症の早期診断が必要になって来ます。脳細胞の鈍化が進まない前に、少しでも脳細胞に刺激を与える事が出来ますから…
現実には、初診時の長谷川スケールが10点以下の認知症患者さんですと認知機能を上げるのは容易ではありませんが、15点以上だと半年ぐらいで3~4点ぐらいは上げる事も夢ではありません。さらに18点以上だと半年ぐらいで4~6点ぐらいは上げる事も可能です。これらはアルツハイマー型認知症の場合です。ビック病で向精神薬を使用している方ですと、認知機能の改善は落ちます。やはり抑制系の精神薬は、脳トレの改善にはマイナスとなります。レビーで幻覚が強くなると、やはり抑制系の薬剤が必要になり、脳トレの効果は半減します。この様に認知症のそれぞれの病態により認知機能の改善にも差は出て来ます。ですから、どの様な病態でも出来る限り抑制系の薬剤は使わずに済ませる事が出来るなら、それが最良の治療法に繋がります。では、どうすれば抑制系の薬剤を少量で済ませる事が出来るかです。その第一歩は穏やかな生活環境を整える努力なのです。
次回に続く
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