診察室からコンニチハ(19)

穏やかな環境であれば、心に波風の立つ事も少ないでしょう。それには認知症者の間違いや失策を責めたりしない事です。認知症者の場合は故意に間違いを犯している訳ではないですから…それは幻覚だったり、記憶違いだったり、または老化に伴う身体機能の衰えだったりする事が多いのです。前立肥大症があれば夜間頻尿も多くなります。高齢者によっては一晩に10回以上もトイレに行く人だっているのです。当然尿失禁も起こるでしょう。女性だって膀胱の収容能力が落ちて夜間に尿漏れを起こす人だっているのです。さらに中高年に多い「睡眠時無呼吸症候群」での夜間頻尿もあるのです。何でもかんでも認知症の所為(せい)にして欲しくはないのです。
また排便コントロールにしても、高齢化による肛門括約筋の弛緩により便失禁や所構わずのオナラも出てしまうのです。私たちは高齢者の生理機能についても深い理解が必要なのです。精神機能と身体機能の衰えの両面から探って行かねばならないのです。身体面からのみ考えても、心肺機能の低下、慢性腎不全、骨粗鬆症、慢性肝炎などがありますが、眼科的には緑内障や白内障による障害、そして耳鼻科的な難聴問題と多方面に多彩な疾患を抱えているのが高齢者の常です。口腔外科の問題だってあるのです。生涯にわたって自分の歯で何処まで咀嚼出来るが大きな課題にもなっています。それらの多くは生活習慣病も関わっているのです。
生活習慣病とは、言い換えるならばその人間の過ごして来た歴史、身体に刻み込まれ足跡(そくせき)なのです。もちろん本人がどの様に健康的な生活を営んで来たとしても、遺伝的な要因や生活環境の劣悪により健康被害に見舞われてしまう事もあるでしょう。しかし、その多くは文字通り本人の生活習慣に根ざしている事が大半でなのです。
一方、認知症になりやすい性格も考察されていました。生活習慣病に比べると、やや関連性に乏しいとの指摘もあり、未だ明確な意義づけはなされていません。「ピック病」は発病以前から感情コントロールの苦手な人が多いとも言われていましたが、医学上の証明はなされていません。それ以外の認知症患者でも発病以前の性格がかつては相当に議論されていましたが、昨今はそんな因果関係の論調も下火になっています。
つまり「認知症」と云う学問の解明と謎が深まる程に、風評的な憶測が影を潜(ひそ)めて来たのでしょう。別の言い方をすれば「分からないと云う事が分かって来たのです」
もっと辛辣な言い方をすれば、医師と云う立場から「分からない」とは言いにくいので、「認知症」と言えば、「アルツハイマー型認知症」と診断して取り繕っていたのかもしれません。事実は、そんな単純な話ではないのに…しかし、医学の進歩過程ではよくある事です。所詮、科学の進歩とは試行錯誤の繰り返しですから。
次回に続く
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