診察室からコンニチハ(37)

家に戻り、妻に今日のT女史との遣り取りを話す。妻の第一声は、
「800万円!…それって非常識な金額じゃない。結局は自費出版を甘い言葉で勧誘されただけじゃないの。それにしても800万円ってのは、法外な金額だわ。そんなドブに捨てる様なお金の使い方は、直ぐに断ってちょうだい。とても納得出来ないわ」
そう言うなり、妻はネットで幾つかの出版社に自費出版にかかる費用と販売に乗せる負担額を調べ出した。
その結果は300~400万円が販売経費も含めた値段だった。翌日、自分自身で大手のK出版社に電話をかけてみた。その値段だけで全国の書店に本を置いてくれると言う。それだけではない。自費出版の場合、販売価格の60%は私に返してくれると説明された。ただの一冊でも60%のバックは変わらないと言うのだ。つまり5千冊ぐらい売れると、400万円ぐらいの元は取れると言うのだ。M社の1万冊以上売れないと1円も私の手元には戻らないと言うのとは大違いである。驚き呆れるばかりだ。
私はその電話でK出版社に訪れる約束を取り付けた。
その翌日、妻の更なる忠告でまた別のS出版社に電話を入れてみた。値段はK出版社より、100万円は安い値段を呈示された。そればかりか、契約前に先ず原稿を送って欲しいと言われた。訪問の約束をしたK出版社は、契約時に半金の200万円が振込まれてから原稿をチェックしてくれると言う。先ずは契約ありきの姿勢であった。私はこのS出版社の経営姿勢に熱く感動した。両方の出版社とも、日本では甲乙つけがたい大手である。しかし、経営姿勢はこんなにも違うのだ。直ぐにS出版社に原稿を送って、K出版社への訪問をキャンセルしたのは言うまでもない。原稿を送って2日後にS出版社から丁寧なハガキが届いた。原稿は拝受しました。2週間ほどのお時間を頂いて返事を下さると書かれてあった。その1枚のハガキだけで、私は天にも昇る心地だった。もう天下のS出版社から、すっかり自分の小説を出した気分になっていたのである。
次回に続く
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