診察室からコンニチハ(39)

「さらに、ご無礼を承知で申し上げれば筆者の視点が常にずれているのですね。時に患者さんの視点だったり、医師の視点になったりと目まぐるしいのです。ある程度は視点を定めて、医師の見解を述べたいのであれば患者さんが医師から説明を受けた体裁を取るべきなのです。それにメインテーマが認知症であるなら、もっと認知症に関するエピソードを詳細に記述する必要があるのではないでしょうか?」
「そ、そうなんですね」
私は戸惑いながら溜め息まじりに答えた。
「もう少し、お話を続けても良いですか?」
川島さんは追い討ちをかける様に続けた。
「小説を書く上での筆力が足りないですね」
「筆力?」
私の怪訝な顔に、川島さんは…
「文章の表現力とでも言ったら分かりやすいですかね」
と、まるで駄目押しの様に付け加えた。結局は作家としての才能がまるで無いと言われたのと同じた。
返す言葉もなく、私はただ俯(うつむ)くだけだ。
「ともかく幾度でも書き直して下さい。納得の行く原稿が出来上がったら、また見せて下さい。それまで一年でも二年でも待ちますから…」
そう言って彼は、出されたお茶を飲み干した。
私は返す言葉もなく、うな垂れたまま…
「今日は、お忙しい中をわざわざお越し頂き有難うございます。私なりにもう一度頑張ってみます」
そう言って彼を送り出した。笑顔を取り繕っていたが、私の心の中は今にも泣き出しそうだった。彼が帰った後の私は、しばらく放心状態のまま何も手に付かなかった。
次回に続く
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