中沢家の人々(18)

今度は工場長が横から口を出した。
「それで兄貴、俺の工場の経理事務はどうなるの。内では紀子さんがいなけりゃ、どうにもならないよ」
「心配するな、その事も充分に考えてある。今ここで紀子さんが辞めたら工場は大変だろうよ。そんな事は百も承知だ」
「じゃあどうするの?」
「彼女には、今まで通りに働いてもらうさ。ただし日曜は出勤で水曜日を休日にしてもらいたい。これならお前の所で困る事もないだろうよ。水曜日は「ことぶき」の定休日なので、この日に若い二人がデートすれば良いじゃあないか」
「さすがは兄貴だ、そこまでの深い読みがあるとは恐れいった。それなら俺にも全く異存はない」
「清吉さん、そう言う話だ。文句はないね」
「はい、有難うございます。先生のご厚意には感謝の言葉もありません」
「紀子さんの意見はどうですか?」
「でも本当に私の様な町工場の事務員上がりの者で、良いのですか?」
富江が横から口を出した。
「紀子さん、何か勘違いしているんじゃない。内の清吉だって、たかだか飲み屋の息子だよ。事務の経理だなんて立派な仕事じゃあないか!…こちらから清吉との付き合いをお願いしたいくらいですよ」
富江も紀子の清々しい乙女姿には心から気に入っていた。
「お母さまがその様に仰って下さるなら、喜んでお付き合いさせて頂きます」
突然に仲道が言い出した。
「清吉さん、今日の仕事はもう良いよ。紀子さんをお家まで送って行きなよ」
「それでは仲道さんが大変じゃあないですか?」
「そんな事は気にしなくて良いさ。それよりは紀子さんを送って行く事の方が重要だ!」
道子も言い添えた。
「折角のご厚意だから、お言葉に甘えてそうさせて貰いなさい」
「本当に!」
紀子は幼な子の様な顔で母親を見た。
「良いんだよ、清吉さんと出かけておいで」
と、優しく道子は頷いた。
工場長も一緒になって、
「紀子さん、私たちの事は何も気にしなくて良いから出かけて来なさい」
と言い出した。
「そんな、未だ初対面なのに!」
「良いじゃあないか、人間の縁とは何処でどう繋がるかは運命の神様が決める事だ。3年付き合っても縁がない時は駄目なもんだ。一目惚れって言葉がある様に初対面でも縁結びの神様が二人をそのまま結び付けてしまう事だってあるのさ」
と、仲道は自分の遠い昔を思い出す様に言った。
次回に続く
関連記事