中沢家の人々(20)

「清吉さん、少しブランコに乗っても良いですか」
と、紀子の方から誘ってみた。
「ブランコですか、懐かしいですね。子供時代に戻ったみたいで…良いですよ、少し乗ってみましょうか」
清吉にもこのまま紀子と直ぐに別れたくない思いがあった。
「私ね、子供の頃は友達と何時もブランコに乗ってどっちが高く上まで漕げるか競争していたんですよ、とてもお転婆だったの」
「へぇ、とてもそんな風には見えないですね」
「今日は初対面だから少し猫を被っているのかも…」
「じゃあ実際の紀子さんて、どんな人なのかな?」
「それは…秘密」
初めて出会った異性に、どんどん惹かれて行く自分に清吉は驚きを禁じえなかった。
「一体どんな秘密が隠されているのだろう?」
「秘密って少しずつ明かされて行くのが楽しいんじゃないのかしら、推理小説みたいに…」
「なるほど、推理小説は余り読みませんが、言っている意味は分かります」
「それじゃあ、これから少しずつその秘密を解き明かして行くのが楽しみですね」
「でもその時は清吉さん、紀子の事を嫌いになっているかも…」
「そんな事は絶対にないですよ、もっと興味を抱くだけだと思います!」
清吉は妙に力んで答えた。
そんなたわいも無い会話でも1時間ぐらいは直ぐにたってしまう。秋の夜は早い。別れたくはないが、幾ら何でも初対面で夜遅くまで若い女性を引き止めて置く訳には行かない。
「紀子さん、そろそろ帰りましょうか」
「そうですね、外もだいぶ暗くなって来ましたし帰りましょうか。でも清吉さん、また会ってくれますよね」
「もちろんですよ、まだあなたの秘密を何も知らないし…」
そこの公園から紀子の宿舎までは10分もかからなかった。
その宿舎の前で清吉はどうにもならない寂しさを感じた。彼女の肌の一部に触れたくなる衝動を抑えるのに限りない抑制が必要であった。もちろん唇など求める訳には行かなかった。
紀子も清吉のそんな欲望に気付いていた。でも二人は多くを語らず、握手だけして別れた。
「また今度ね…」
とだけ言って。若い女性と過ごす時間がこんなにも楽しいとは初めて知る体験だった。
紀子も清吉と別れてまた寂しさを感じていた。男性の持つ大きな暖かさを初めて知ったかの様である。二人は恋心の意味を知ったのであろうか。それは理性の入らない感情の抑えられない思いである。
次回に続く
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