中沢家の人々(24)

それから2年、紀子28才で結婚7年それでも未だ子宝には恵まれなかった。さすがに産婦人科に行ってみた。
不妊の原因は紀子にあった。
子宮後屈症と周辺臓器の癒着がその原因であった。非常に受精しにくい体型であるとも言われた。「めまい」がする様なショックを覚えた。
自宅に戻り夜の布団の中で涙ながらに紀子は訴えた。
「私と別れて!…私はあなたの妻になる資格などないの…あなたの子供一人作れないなんて私は女としては何の価値も無い!」
「紀子、一体何があった。何故子供が出来ないのだ」
紀子は今日の産婦人科医で受けた説明を詳しく清吉に話した。
清吉は黙って紀子の話を聞いていた。そしてポツンと言った。
「世の中には子供のいない夫婦は幾らでもいる。そんな理由だけで別れるなんて出来ない。」
「でも、これだけお店を拡げて後継はどうするの?」
「店は運が良くて繁盛しただけだ。時の流れの中で何時衰退するか分からない。俺達の間に子供が出来ないなら、養子縁組って方法だってあるじゃあないか」
「あなた、本当にこんな私で良いの。他で子供をつくっても良いのよ。私にはあなたを咎める資格なんてないもの」
「馬鹿、何を言うのだ。俺はお前以外の女は抱きたくない!」
「あなた、あなた…本当にこの家にいても良いの?」
「良いに決まっているだろう。それとも他に良い男が出来たか!」
「何を言っているの…馬鹿、馬鹿…こんなにもあなたが好きなのに!」
そう言って紀子は清吉の胸の中に飛び込んで来た。その晩、二人は何時になく激しく燃え上がった。
しかし清吉の胸に一抹の寂しさが湧き上がった事実は隠せない。だからと云って紀子と別れる気持ちは全くない。
唯これ以上に事業拡張をしても、どんな意味があるのか…今だって新橋に「ことぶき」3号店の建築に取り掛かっている。
それを取り止める積もりはないが、これ以上に資産を増やす意味があるのか大きな疑問を抱き始めた。何か生きる目標が少しずつ薄らいで行く感じだ。
翌1972年2月みぞれ混じりの寒い朝、大久保にいる父親の家政婦から驚くべき話しが持たされた。
貞雄が酔っ払ってストーブを倒し、家が全焼したと言うのだ。幸い貞雄が階段から転落した所を家政婦が火事場の馬鹿力で何とか家の外に連れ出したとの話しだ。火傷こそしなかったものの意識不明の重体らしい。直ぐに近くの総合病院に運びこんだが、ともかくご主人が病院に駆けつけてくれと言われた。
更に困った事には、両隣までが半全焼状態になってしまったらしい。
次回に続く
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