中沢家の人々(32)

その為、初心者にゴルフを教える最大のポイントは両肩の力を抜く事とグリップの基本的な握り方から始める。
しかし里美はものの一時間もしない間にかなりの要領を飲み込んだ。7番アイアンで50~60ヤードぐらいは飛ぶ様になって来た。
紀子の時よりは覚えがずっと良い。それに楽しそうだ。
「どうだ、疲れただろう」
と問いかけると、
「ううん、もっと練習して行きたい」と、言う。
「早く上手になって清ちゃんとコースに行きたい。それよりも清ちゃんも少しやって見せて」
と言って来た。
「でもそれは女性用のクラブだろう」
「女性用だと出来ないの?」
「そんな事は無いが、自分本来の飛びは出せないな。まぁ、ちょっとその7番アイアンを貸してみな」
里美のアイアンを受け取ると少し素振りをしてボールを打ってみた。優に150ヤード以上は飛んで行った。
「すごい!」
「まぁ女性用のクラブだからシャフトが柔らか過ぎて幾らか勝手が違うがな」
「それでも大人と子供ぐらいの違いがあるのね」
「でも里美も初めてクラブを握ったにしてはセンスは良い方だと思うよ」
「じゃあ私も清ちゃんみたいに一杯練習したら、同じ様に飛ぶのかしら?」
「まぁ男と女の腕力の差はあるから、そこまでは無理かな」
「それもそうね、でも里美も一生懸命に練習する」
「でも何時も夜遅くまで仕事があるだろう。練習する時間なんかないだろう」
「週一回の公休日は清ちゃんと練習して、後一回は練習の後で汗を流して清ちゃんと同伴で店に出るは、清ちゃんと週一回ぐらいの遅刻で同伴出勤ならママは大喜びよ」
「里美が汗を流している間、俺は何処で何をして待っている?」
「私のマンションで待っていれば良いじゃあない」
「お前も随分と強引だな。俺もそこで汗を流すのか?俺がお前の裸を見て妙な気持ちになったらどうする!」
「別に構わないわよ。一年前から清ちゃんが葵に通う様になってからママは大喜びだし、私も売り上げナンバー1を維持しているのは清ちゃんのお陰だもの。店の皆んなは私と清ちゃんがとっくに出来ていると思っているわよ」
「それは初耳だな、それで里美は構わないのか?」
「全然構わないわよ、清ちゃんみたいにスマートでお金に綺麗な人、誰だって好きになるわ、お店の中で清ちゃんの悪口を言う人なんか誰もいないわよ」
「それは随分と褒め過ぎだな」
「店の中では誰が一番始めに清ちゃんの女になるかって数ヶ月前から噂が飛んでいるのよ。もちろん本命馬は、この私だけど」と言って、里美はクスリと笑った。
次回に続く
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