中沢家の人々(45)

午前5時過ぎに仲道は早くもやって来た。紀子の方が支度に手間取り20分程、仲道を待たせてしまった。
「仲道さん、呼んでおいて待たせたりしてご免なさいね」
「いえ、女性の支度は男の様には行きませんから気になさらないで下さい」
午前5時45分、仲道が乗って来たタクシーでそのまま小田原に向かった。夜はすっかり明け、梅雨空の小雨が降り続いていた。車は東名高速から小田原厚木道路を経て1時間半程で目的地の病院に着いた。7時20分救急センター入口に走り寄って行くと、旅館の女将がすでに紀子達を待ち構えていた。女将が急ぎ紀子のそばに駆け寄り
「紀子さん、紀子さんですよね!」と、
言うなり、それ以上は言葉にならず紀子の手を握り…
「お母さんはね…今日一杯も持ち堪えられないかもしれないと、今お医者さんから聞かされたばかりで、紀子さんが何時到着するのか気ばかり焦っていたのよ」
とだけ、やっとの思いで告げた。紀子は女将の手を握りながら、
「それは本当にご心配をかけて申し訳ありませんでした」
と、紀子は女将に頭を下げた。
「そんな事はどうでも良いんだけれど後は紀子さんが、ご自身でお医者さんに確認して下さいな。貴女の顔を見たら急に疲れが一気に出た感じね」と、女将はホット溜め息をついた。
「色々とご迷惑をおかけして、お礼の言葉もございません。ところで何故、急に病気で倒れたのでしょう?…何か予兆のようなものがあったのでしょうか!」
「それが昨晩の11時半頃だったかな、道子さんが急に頭が割れる様に痛いから何か薬がないかって言うので、医者に行くにしても時間も時間だし取りあえず手持ちのセデスを2錠手渡したの。私も頭痛持ちで時々はセデスのお世話になるもんだから…道子さんは1錠で足りないと思ったのか私の見ている前で2錠ごと飲んで、そのまま部屋に戻ってしまったわ。私もそのまま寝たのですが、その日は団体のお客さんが泊まっていて夜中まで麻雀をやっていたのですよ。
その物音が気になって何か眠れずにウトウトしていたんですけれど、それ!満貫一発積もだ、とか言ったお客さんの声で目を覚ましたんですが時計を見たら午前3時でした。
幾ら何でもこんな時間まで麻雀もないもんだと思ったので、お客さんにもう少し小さな声でお願いしますと、ご注意申し上げに行ったのです」
「いゃあ悪かった。もう3時も回っているんだ。皆んな好い加減に寝ようぜ」
と、お客さん方も分かって頂いた所で
「自分の部屋に戻りかけたのですが、急に道子さんの事が心配になったんですよ。胸騒ぎがしたとでも云うのですか、道子さんの部屋を覗きに行ってみたんです。道子さん具合はどう?…と言って起こしても悪いし、そっと部屋の中に入って行ったんですね。何か眠っている様にも見えたんですが、それにしては変なんです。何時になく眠っていると言うよりは意識を失なっている様な感じがしてならなかったので、道子さん、道子さん、と言って声をかけながら少し起こしてみたんです。しかし、殆んど反応がなかったのです。父が中気で倒れたのを見ていたので、その時の思い出が蘇ったのですかね?…そこで慌てて救急車を呼んで、この病院に入院させたのですよ」
次回に続く
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