中沢家の人々(49)

そんな紀子の心の動揺を鎮めるかの様に仲道は彼女の耳許にささやいた。
「社長、ここは先生方にお任せして私たちはただ祈るしかないでしょう。お母さまの生命力を信じて」
「確かに、そうね!…祈るしかないわね。先生、有難うございました。私たちは一度戻ります。取り敢えずは、この病院のそばに宿を取って又午後にでも出直しして参ります。それでも大丈夫でしょうか?」
「まあ、この数時間でどうにかなると云うものでもないでしょう。一先ずお帰りになって結構です」
「では、お言葉に甘えて又出直して来ます。長々と丁寧なご説明を有難うございました」
「いいえ、ともかく私たちも治療には全力を尽くします」
「それでは失礼します。また後ほど…」
と紀子は医師に軽く頭を下げた。仲道も同時に医師に頭を下げた。
彼等は一先ず箱根宮ノ下「富士屋ホテルに荷を解いた。チェックインには未だ間があったが、ともかく超過料金を払ってでも早めに休ませて欲しかった。仲道とは隣合わせの部屋を取り、紀子は先ず入浴した。後は倒れる様にベッドで横たわった。
仲道も同様に睡魔に襲われるごとく、そのままベッドに潜り込んでしまった。
3時間近く紀子は、意識を失うかの様に寝てしまう。午後1時前に紀子がやっと目を覚ます。仲道は2時間半ほどで眠りから覚めた。彼はシャワーで汗を流し紀子から呼ばれるまで自分の部屋で、これから起こり得る事態と対処の仕方をあれこれ考えあぐねていた。午後1時に仲道の部屋の電話ベルが鳴る。
「仲道さん、大丈夫。起こしてしまったかしら!」
「もう30分ぐらい前には起きていました。だいぶ休んで元気になりました」
「そう、それは良かったわ。それよりお腹が空かない。私たち今朝から何も食べていないでしょう」
「そうでしたね、社長にそう言われ私も急に腹が減って来ました」
「そうよね、このホテルのメインダイニングで何か食べません!」
「はい、喜んでお供いたします。」
「でしたら、1時半に予約を取って貰って良いかしら…」
「分かりました。すぐに手配します。少しお待ち下さい」
「それじゃあ、お願いね。私はお化粧直しをするから…」
午後1時40分ホテルのメインダイニングで昼食を取る。ランチメニューのコース料理を注文するが、空腹であるにもかかわらず、紀子はパスタを半分食べるのがやっとだった。仲道は申し訳なさそうに一通りは食べた。
その後、デザートのコーヒーだけは紀子もゆっくり味わった。
午後3時半頃、二人で再び小田原の病院に向かった。
早朝、病状説明してくれた小村医師は当直明けなのか不在であった。代わりに30才代後半と思われる山中医師が説明に当ってくれた。
次回に続く
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