中沢家の人々(58)

「そんな事は、あなたに言われなくても分かっています。問題は、その残高が幾ら残っているか…あなた自身が知っているかを聞いているんです」
清吉は不思議な物でも見る様な顔つきで
「何だ、そんな事で機嫌を悪くしているのか。それで幾ら残っていると言うのだ。6千万円ぐらいになってしまったか?」
里美はいよいよ怒りが爆発しそうになったが、辛うじて堪え…
「そんなに残っている訳がないじゃあないですか!」
「じゃあ幾ら残っているんだ」
「自分の目で確認なさったら」
と言って、2冊の通帳を清吉の前に叩きつけるかの如く差し出した。清吉は仕方なく2冊の通帳を手にした。結婚して以来、清吉は通帳の残高など気にした事が一度もない。遊びにも行かず、仕事にのみ専念している時はそれでも良かった。預金残高は増えるだけしかなかったから…
しかし、今ではそうは行かない。遊ぶだけで仕事をしていないのだから減る一方だ。2冊の通帳を見比べ、さすがの清吉も愕然とした。2冊の通帳を合わせても3千万円にならない額だ。
「何時の間にこんなにも使ってしまったのだ!」と、
溜め息をついた。
そら、見た事かと云った顔で里美はさらなる追い打ちをかけた。
「何時の間にじゃあないでしょう。あなたの毎日のゴルフだけでも一体、幾ら使うと思っているの?
月に50万円じゃあ足りないでしょう。それに翔太のベビーシッターにだって20万円以上は払っているし、あなたと私の洋服代だけでも40万円は軽く超えるんじゃあない。あなたのゴルフウェアだって馬鹿にはならないのよ。それ以外にはパートの家政婦さんに25万円ぐらいは支払うでしょう。食事代や色々な出費を合わせれば月に200万円ぐらいは使っているのよ。一年間にすれば2400万円にもなってしまうの…あなたが1億円の小切手を受け取る前は、新大久保の自宅から毎月の様に数百万円以上は持って来たじゃあない。
それが出来ないから今では使う一方でしょう」
と言われ、清吉は言葉を失った。そんなにも金が無いのか?
我ながら呆れる思いだ。
しかし、どうすれば良いか直ぐに手立ても考えつかない。
「翔太は未だ3才なのよ。これからどうするつもりなの?…
あなたは未だ43才でしょう、そんなに遊んでばかりいて父親の責任が果たせるのですか?」
清吉には思いもしなかった攻撃の矢である。心の臓が打ち抜かれるかの様な衝撃であった。
しかし、全ては里美の言う通りだ。返す言葉は何もない。それでも思いつくままに
「ことぶき、の社長の座を返してくれる様に掛け合ってみるか?…それが駄目なら重役の一人にでもしてもらえないか、交渉するか?…あいつとは未だ正式な離婚をした訳でもないんだから」と言って、
照れ隠し気味に里美の顔を見た。
「あなたは何を言っているの、大丈夫ですか?…自分が何を言っているか分かっています?」
里美の目は清吉を完全に軽蔑し切っていた。
次回に続く
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