中沢家の人々(59)

そんな里美の視線を無視して、
「まぁ、俺に任せておけ。何とか手立ては考えるから」と、
清吉は安請け合いをしたが元より確証がある訳ではない。ただ彼なりに何とかしなければと、少しばかり焦りを感じ始めたのは事実である。
里美にしても清吉の安易な返事を単純に信じた訳ではないが、
それでも3才の幼児を抱えては彼に頼るしかない。今更、水商売に後戻りが出来る訳もないだろう。
それから1ヶ月しても清吉はまるで動く気配を見せない。相変わらずゴルフに夢中みたいである。
里美が何か話しかけても、清吉は生返事ばかりで正に「暖簾に腕押し」そのものである。
しかし清吉もこれまでの様にゴルフにばかり頭が行っている訳ではなかった。それなりに「ことぶき」へ接近する方法を考えあぐねていたのだ。「ことぶき」の誰を口説けば、自分の立場が有利になるかを迷っていた。先ず第一に考えたのは仲道であったが、これは難攻不落の城の様な物である。
普段は大人しいが気骨がしっかりしていて清吉が入り込む空きはなさそうだ。それに仲道は板前としては清吉の兄貴分に当たる。彼により料理の一から十まで教わった。現在の様に身を持ち崩した自分をどう見ているのか、考えるだけで背筋が寒くなって来る。
それでは他に誰かいるのか?
10年近くも「ことぶき」に殆んど顔を出していない清吉は、そこで働く職員の顔も名前も全く出て来ない。そんな状態で清吉の頭は一ヶ月ほど思考停滞に陥っていた。
清吉の優柔不断な思惑とは別に、里美にしてみれば何も考えずに何時までもゴルフばかりやっている、どうにもならない清吉の姿しか見えて来ない。
何時もの様にゴルフ場から帰り、夕食の後はダラダラとテレビを見続けている清吉に里美はイラただしさを抑え切れず…
「そうやってテレビを見ているのも良いけれど、あの話しはどうなったの?…何か進展しているのかしら!」と、
詰る様な質問を投げかけた。
清吉はのらりくらりと
「あの話って何の話しだ!」
と、里美から見れば惚けている様な受け答えをした。
「また、そうやって好い加減な返事をする!…私たちの将来の事は俺に任せておけと言ったばかりなのに、もう忘れたの?」
「あゝ、その話しか。別に忘れた訳ではない。俺なりに色々と手は打っているから、しばらく待ってろ」
と、テレビから目を離さず何とも頼りのない返事をした。
そんな返事で満足が出来る訳もなく、里美はさらに追い詰める様な質問を繰り返した。
「色々って、どんな手を打っている訳…私にはあなたが真剣に私たち母子の将来を考えている様には見えないんだけれど…」
そこまで言われ、さすがに清吉も少しムッとした顔になって
「お前、そんな言い方はないだろう。翔太は俺にとっては、たった一人の可愛いい息子だ。その将来を何も考えていないってのは言い過ぎだろう」
「そうなの、それなら良いんだけれど!」
と、里美はやや疑わし気な視線で頷いた。
次回に続く
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