中沢家の人々(65)

一方、清吉から相談を受けた川崎は色々と悩んだあげく仲道に打ち明けた。
「仲道さん、どう思いますか清吉さんの事を。今更帰って来て重役の端っこに加えて欲しいと言われても返事の仕様がないじゃあないですか?」
仲道は少しの動揺も見せず、
「確かに川崎君の言う通りだが、この問題は私たちだけで決められる話しではないだろう。これこそ社長の決断を仰ぐべき重要な問題だ。私から社長にお話してみる。それまで、この話しはオフレコだからね」
大先輩の仲道にそう言われては、その言葉に従うしかない。
「よく分かりました、全ては仲道さんにお任せいたします」
と、川崎は丁寧に頭を下げ仲道に一任した。彼は仲道に一目も二目も置いていたので、厄介な清吉の問題を仲道に託して一安心と云った顔つきであった。
数日して新大久保の自宅に訪れた際に、仲道は紀子に川崎から聞かされた清吉の申し出を初めて打ち明けた。
「社長、ご主人の申し出はどの様に取り計らいましょうか?」
仲道は紀子がどんな反応を示すのか、それなりの興味を抱いていたが紀子は予想外に冷静であった。
「あれから3年半ね、そろそろ愛人との同棲生活にも疲れが見え始めたのかしら…それともお金が底を付いて来たのかしら…
高い授業料だったけれど、外で遊ぶだけ遊んだ子供が家に帰って来る時が来たみたいね…」
さすがの仲道も紀子の度量の大きさには驚くばかりだ。
「それでは、ご主人をお許しなさるので!」
「未だ許すとは言ってないけれど、あの人もそろそろ麻疹(はしか)が治る時期に来たのかなと思っただけ…もともと「ことぶき」は中沢家のお父様やお母様が作ったものでしょう。嫁の私はただ預かっているだけの積りよ」
この紀子の言葉に仲道は驚くと云うよりは呆れかえった。
「それでも、ことぶきグループの株券の殆んどは社長名義ですが、それを全てご主人に譲ってしまうとでも仰るのですか?」
「そうは言ってないは…」
「では、どの様な意味なのですか、愚直な仲道には分かりかねますが?」
紀子は、わずかに微笑みながら
「私たちの人生って、どんなに考えたってどうにもならない事が余りに多いんじゃない。母の最期だって、どんなに私が泣き叫ぼうが運命には逆らえないで母は逝ってしまったでしょう。あの人だって最初は唯、子供が欲しかっただけなのよ。
私との間に子供が出来ていたら、あの人も社長としての仕事を立派に熟していたと思うわ!
仲道さん、あなたはどう思います。私があの人を許すと言ったら、あなたは反対なの!」
仲道に返す言葉がある訳もなく
「全ては社長の思い通りになさるべきでしょう。私たちは、そのご意志に従うだけです。あの方は現在でも社長のご主人なのですから、使用人の私ごとき者が口を挟むべき筋合いではないと思うのですが…」
次回に続く
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