中沢家の人々(67)

里美が慌てて叫ぶ。
「気を付けてね!…翔太を危ないめに会わせちゃ駄目よ」
「分かっているよ、心配するな!」と言って、
「翔太、オンブだ、パパにオンブして!」
と清吉がおいでをすると、そのまま嬉しそうに近づいて来た翔太をオンブして海の浅瀬に連れて行った。翔太は清吉の背中で
「キャッキャ、キャッキャ」
と喜んでいる。パパの大きな背中にオンブされ翔太は満足そうだ。そんな父子の姿を見て里美も日頃の清吉に対する鬱憤(うっぷん)が、幾らか晴れる様な思いでいた。昼食は海岸沿いに点在する「海の家」で取った。値段の割には味付けも素材も程度の低い物が多く、ともかく腹に詰めるだけの代物でしかない。かつては一流の料理人を目指した事もある清吉にして見れば、随分と客を馬鹿にした商売だと思ってしまう。
しかし、こんな場所でそんな偉そうな事を言っても始まらないので清吉は黙っていた。
昼食後は砂浜で穴を掘ったり、小山を作ったりして遊ばすが、翔太は作ったそばから壊してしまう。作った物が気に入らないのか、ただ壊すことが楽しいのかは分からないが幼児には何もかもが遊びなのだろう。
午後3時過ぎには「海の家」で砂を洗い流して旅館に戻る。
里美が…
「もう旅館に帰らないと、後が大変だから」
と言い出した。
「清ちゃんはゴルフで日焼けに馴れているから良いかもしれないけど、翔太は未だ3才なのよ!…こんな直射日光の紫外線に長く当っていると皮膚の炎症が強くなってお風呂にも入れなくなるわ」
と言って、旅館に帰るのを急がせた。翔太はもう少し遊んでいたそうだった。里美にそう言われ、清吉もそんなもんかと思い海水浴は早々に打ち切った。
幼児の皮膚の繊細さまで頭が回らず、さすがに母親の神経の使い方には敵わないと考えた。
午後6時に翔太と二人で旅館の風呂に入りかけたが、全身の皮膚が真っ赤になって少し熱を持っていた。里美がそれを見て、
「ね、だから言ったじゃあない。幼児の皮膚は違うんだって。本当に男の人は何も分からないんだから!…翔太ご免ね。
ママがもっと早く気付けば良かったのに…清ちゃん、湯船なんかにそのまま翔太を入れたりしては絶対に駄目よ。温めのシャワーで汗を軽く洗い流すだけにして…もう、本当に馬鹿なんだから」
と、里美は不機嫌そのものだ。
清吉は返す言葉もなく言われたままに、温めのシャワーで翔太の頭を洗い身体はそっと洗い流す程度にした。
次に里美がシャワーを浴びた。20代の白い裸体は子供を産む前と変わりなく輝いていたが、その姿勢は清吉を一切受け入れない強い決意が滲み出ていた。
子供と自分の将来に無責任な対応しか出来ない、そんな男に誰がこの肌を許すかと云う態度が白字(あからさま)であった。
清吉もそんな里美の固い視線に気付き黙って指を咥えているしかなかった。
次回に続く
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