中沢家の人々(74)

「はい、19才になったばかりです」
「そう19才なんだ、一番良い時だね。それでモデルとか云った仕事に興味はあるの?」
「はい、それはもちろん。でも私なんかに務まるでしょうか?」
「そうね、モデルと言っても色々とあるからね。ファション関係の仕事が一般的だけど、パーツ専門のモデルなんかもあったりして…」
里美は目を丸くして、
「パーツ専門って何ですか?」
と、生まれて始めて聞く言葉に驚いた。
「パーツ専門と言うのは、手とか脚とか身体の部分的なモデルの事を言うだ」
と、吉村は優しく説明した。
「へぇ、そんなモデルもあるのですか?」
里美は少しばかり気持ちが落ち込んで来た。モデルと言えば、ファションモデルだけしか思いつかなかったので…
そんな里美の気持ちを察して、
「まあ、パーツ専門と云うのは特殊な分野だから余り気にしなくても良いよ。ただ、そう云う分野もあるとの知識を持っていればあれば良いだけの話だ。
やはり里美ちゃんはファションモデルの線で行くべきだと思うが、身長と体重を教えてくれない?」
吉村の突然の質問に戸惑いながらも里美は素直に答えた。
「はい、身長は161cm、体重は50kg丁度ですけど、何か?」
「なるほど、身長と体重のバランスは健康そのものだがファションモデルを目指すなら、もう少し体重は落とす必要があるかもしれない。顔の輪郭はとても良いんだが、欲を言えば顔全体は小さめが好まれるんだ。もちろん君の顔が大き過ぎると云う意味ではないのだが、どうしても時代の流行があるんだ。さらに欲を言えばだね…」
「まだ何かあるんですか?」
と、里美はすっかり気落ちして尋ねた。注文した、ちらし寿司には全く手をつけず吉村の口許に全神経を集中していた。
「まあ、そこまでこだわる必要もないか!」
「何ですか、こだわるって?」
「ごめん、ちょっと考え過ぎかもしれない」
と、吉村は話を打ち切ろうとした。だが里美の方が納得出来ず
「話しを途中で止めては気になります!」
と逆に、彼を問い詰めた。
「大した事ではないんだが、身長が後5cmあれば理想的だと思っただけさ」
「私がチビだとでも!」
「そこまでは言っていない、ただの理想だけで絶対条件じゃあないから余り気にしないで…」
吉村は話の流れを変えようとしたが、里美は気落ちして何もかも諦めた表情になってしまった。
「まあ、そんなに思い詰めないでも大丈夫だよ。一口にモデルと言っても色々あるんだから。それよりは折角の食事だから箸をつけたら…」
と、吉村は宥め諭した。里美も何とか気を取り直して、ちらし寿司を食べ始めた。
それでも心には何とも言えない、わだかまりが消えない。
「モデルって云うのは、そんなに簡単なもんではないんだ!」
次回に続く
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