中沢家の人々(80)

「里美ちゃん、少しお話があるんだけど」と、
朋子に声をかけられ二人はキッチンのテーブルに向かい合った。
「前から里美ちゃんには色々と話していたけど、私はやっぱり大学を卒業したら田舎に帰る事にしました。本当は大学卒業後は旅行会社に勤め、これから先も里美ちゃんと一緒に生活を続けて行く積りだったんだけど、田舎の両親がどうしても許してくれないの。自分でもこんな結果になるとは予想していなかったわ…あなたとの生活も後3ヶ月ぐらいで終わってしまうけど、ご免なさいね!」
そう言われても里美には返す言葉がなく
「やっぱり朋子さんは田舎に帰るのですか?…とても寂しくなるけど仕方がないですよね。一人娘なんだから」と、
溜め息混じりに答えた。自分の都合をあれこれ言っても仕方がない。
ともかく明日からは自分のこれからの生活を考えなければならない。里美にとって納得の行く仕事が見つかるのか、明日からまた新しい職探しに専念するだけだ。
次の月曜日、喫茶店での仕事の合間に店に置いてある新聞で求人欄を追いかける。寮のある職場はある様でいて、容易には見つからない。住み込みの家政婦とか新聞配達の販売促進兼務の職場、あるいは病院勤務の看護婦などが多く、どれも里美には向いていそうにない。
午後4時、仕事を終えて高校に向かう。2時間目は数学だったが、里美は授業を殆んど聞いていなかった。授業が終わって教師の水沢が教室を出ながら里美に声をかけて来た。水沢とは1ヶ月前の映画以来、外では一度も会っていない。教室から出た廊下で水沢は、
「山崎、どうした今日は元気がないじゃないか…何かあったか?」と、
聞いて来た。里美は藁にもすがる思いで、
「先生、少し相談したい事があるのですが何時かお時間を頂けませんか?」
「何だ急に、困った事でも起きたか?」
「はい!」
「そうか、じゃあ明日でも授業が終わったら飯でも一緒に食べに行くか…」
「すいません、私の為にお忙しい所を」
「いや、良いんだ。俺が力になれるかどうかは分からないが、ともかく相談には乗るよ」
「有難うございます。それでは、この間の『すかいらーく』で明日の放課後に待っています」と、
少し笑みを浮かべ里美は頷いた。
「そうか、じゃあ明日は俺も成るべく早く行く様にするから」
と言って水沢は職員室に戻って行った。
翌日の火曜、夜10時「すかいらーく」で二人は夕食を共にする。里美は水沢に就職の斡旋を頼んだ。就職担当は国語の教師であったが、水沢も補助的には関わっていた。
しかし、基本的に就職の斡旋は高校卒業後が中心なので水沢にしても里美にとって都合の良い職場を探すのは容易でなかった。
次回に続く
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