中沢家の人々(82)

何気なく客の注文を取りに来たら、そこに水沢がいたのだ。
「先生、どうしてここに!」
「いや、山崎が学校に出て来ないので心配になって来たのだ。少し休み時間は取れないか?」
「はい、午後1時からなら何とか!」
「そうか、それならコーヒーでも飲んで待っているか…」
「すいません、ただ今コーヒーを持って来ます」
そして午後1時になって里美と水沢は近くのレストランでカレーライスを食べる。
水沢は里美が何故、学校に来ないかと尋ねる。
「先生だって知っているじゃあないですか、パートだけの仕事ではアパートの家賃も払えない事を」
と、逆に里美が喰ってかかる。
自分が里美に取って適切な就職口を探せない事実に、改めて水沢は責任を感じてそれ以上は何も言えない。
そして、もし自分のアパートなら遠慮なく使ってもらって構わないと苦しまぎれの返事をする。里美は驚いて反発する。
「それって先生と一緒に住むという事ですか!」
「まあ、そう云う事になるな。ちょっと非常識な話かな?」
と、水沢は苦笑して答えた。
「当たり前です。そんな事が出来る訳はないでしょう…」
と、里美はきっぱりと断った。そのまま昼休みは終わり、里美は仕事に水沢は学校へと戻って行った。
里美はその後も学校には行かず喫茶店の仕事に専念していた。
もう学校に行く未練は捨てなければ…と、考え始めていた。
それから一週間は無我夢中で働いた。しかしアパートに戻っても朋子はいない。学校にも行かない、そんな生活に里美は味気なさと寂しさを感じ始めた。
「朝から夜まで働くだけ働いて、自分は何が楽しいのか?」
そう考え出すと天蓋孤独の身が余りに惨めだった。
4月19日の土曜、また水沢が昼前に里美のいる喫茶店にやって来た。朋子とのアパートに住んでいられるのも後10日余りである。まだ自分の住む所さえ決まっていないのだ。水沢が声をかけて来た。
「山崎どうする、学校は止めるのか?新しいアパートは決まったのか」
と、矢継ぎ早やの質問である。
彼女には何の回答もない。それでも朋子のアパートを引き払うべき期日は迫っている。
「山崎、やっぱり俺のアパートに来ないか?…一時でも来て、ゆっくりと寮付きの職場を探すのだ。俺もお前の仕事を探すのは手伝うから」
「でも男性の人の部屋に泊まるなんて他人に知れたら何て言い訳をするのですか?」
「男性と言っても、お前の先生だろう!」
「それでも男性には変わりはないでしょう…」
「まあ、そう言われてしまえばそうかもしれないが…でも学校の方はどうするんだ。このまま止めてしまうのか?」
「いえ、学校には未練があるのですが!」
次回に続く
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