中沢家の人々(97)

そんな事情を何も知らない清吉はゴルフ場から幼稚園へと直行して翔太を出迎えた。翔太はママではなく、パパがやって来たので少し驚いた顔をしていたが直ぐ清吉の車に乗り込んだ。
「ママは急用が出来たので、今日はパパが迎えに来たんだよ」
と言われ、翔太はコックリと頷いた。そのまま品川のマンションに二人は戻った。
午後2時半に親子がマンションの部屋に帰ると、下駄箱の上に手紙が置いてある。封筒には、「中沢清吉様」と書かれてあり、裏には「里美」とあった。
何事が書かれてあるかと訝り清吉は急ぎ封筒の中身を読んでみる。翔太はリビングで一人テレビを見ながら屈託のない顔でお菓子を食べていた。
「前略、この5年余りは本当にお世話になりました。あなたとの間に翔太と云う子供まで授かり途中までは何不自由のない生活をさせて頂き有難うございました。
しかし、この5月からは私たちの間には目に見えない溝の様なものが出来ています。
この溝をあなたも精一杯に埋めて行こうと努力はなさったのでしょうが、そんな努力にもかかわらず現実の生活には何の変化も見られません。
私も27才となり、女として新しい人生を出直すのは今が最後かと心に決めています。翔太の母親として、子供の行く末を考え出すと迷いの糸は断ち切れませんが、これまで子供に恵まれなかった、あなたの立場を思いますと翔太の育児は父親に任せるのが最良の方法かと考え翔太は、あなたの元に残します。
さぞや身勝手な女と、お思いになるでしょうが、この数ヶ月間というもの私が考えに考えた結論です。
追伸、どうか私の後は追わないで下さい」
手紙を読み終えて清吉は、何の考えもまとまらず翔太の横に座り、ぽつねんと一人コーヒーを飲んでいた。翔太はテレビでディズニーの映画を夢中で見ている。
午後4時半過ぎテレビにも飽きた翔太が、
「ママはどうしたの?」と、
清吉に尋ねた。
「そうだね、ママはどうしたのかな!…ママのお友達が病気で大変らしいんだって言っていたけど、ママから電話もかかって来ないね。まあ、もう少し待ってみるか」
と清吉に言われ、翔太はまたテレビを見なおした。
それから2時間、午後6時半になって翔太が空腹感を訴え出す。目には少しばかり不安気な表情も浮んで来た。そんな息子を励ます様に、
「翔太、何か食べに行くか?」
「うん、ラーメンが食べたい。
でも、ママはどうするの?」
「そうだな、ママはどうするかな?…もし遅くなる様だったら何か食べて来るだろう」
「そうだね、ママは大人だからね」と言われ、
それ以上の言葉は清吉の口から出せなかった。二人はマンション近くの中華料理屋に入り夕食を取る。
次回に続く

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