中沢家の人々(120)

沼沢は悪びれもせずに、
「里美がそう思うならそれでも構わないが、今は真面目に株取引の話をしているつもりなんだがな!」
と、里美のそんな言い草を抗(あらが)いもせずに、沼沢は話を続けた。
里美は少し照れ笑いをして、
「ご免ね、真面目には聞いているのよ」
と、言い訳をした。
「要するに、人は何に生き甲斐を見つけるかだろう。金儲けも、若い女を口説くのも、その一つだ。ただこれだけは言えると思う。簡単に手に入る物はすぐに飽きが来てしまうものだ。困難であればある程、それを手に入れた時の喜びもまた格別なもんじゃあないかな」
「それは私にも分かる気がする」
と、彼女も同調した。
「確かに相場取引きで安定して利益を上げるのは容易ではない。しかし数少ない人達だけは20年も30年間も、いやそれ以上に利益を上げ続けている人もいるのだ。日本人にもいるし、世界中を見渡せばもっと多くの人がいる。2年や3年なら利益を上げ続けられる人達何千人もいるだろう。しかし20年以上となると100近くになってしまうだろ。30年以上と言うと数十名ぐらいにまで減ってしまう。それはプロスポーツの世界と同じだよ。野球にしても相撲にしても、トップ・プロというのは僅かな人達だ。そして、その様なトップの人達には一般庶民では考えられない様な収入が手に出来るのだ。例えば相撲なら何と言ってと千代の富士(ウルフ: あだ名)が今は全盛だろう。あの仕切り中に土俵の周囲を懸賞幕が何十枚と並ぶだろう。多い時は30~50枚ぐらいまで並ぶ事もあるよな。あの懸賞幕1枚に一体幾らの懸賞金がかけられていると思う?」
「分からない、そんな事は考えた事もないわ、幾らぐらいなの?…1枚に1万円ぐらいはかけられるの!」
沼沢はニコっと笑って、
「そんな金額ではないだろう。どう考えたって5万円以上だろう」
里美が驚いた顔で、
「それじゃあ懸賞幕が40枚も並ぶと200万円の懸賞金が一回の相撲で貰えるの、たった2~3分の勝負で!」
「その通りだ、それがトップ・プロの収入と云うものだ。昔、若乃花が土俵にはお金の塊が埋まっていると、言った話は有名な実話だ。そんなトップ・プロはスポーツの世界だけではなく、囲碁、将棋、芸能界そして株取引の世界にもいるって事だ」
「ふ~ん、何でもトップに上りつめると凄いのね。でも、私とは縁のない世界だわ。とても私が何かのトップ・プロになれるとは思えないし…」
「誰だって最初からトップ・プロになれるとは思ってはいないよ。でも、そんな里美だって『葵』ではトップホステスにはなりたいと努力しているじゃあないか。事実、トップホステスになっているし…」
そう言われて里美は恥ずかしそうな顔をしていたが、満更でもない様子で、
「まあ、まあ、沼ちゃんもお口が上手になった事…」
と言って、沼沢の言い草に肯定も否定もしなかった。さらに沼沢は話を続けた。
「そこでだ、里美は何が目的でトップホステスになる努力をしているのだろうか?…たぶんプライドとそれに見合う給料だと思うのだが、違うかな!」
里美は頷いて、
「そりゃ、そうでしょう。誰だって同じじゃあない!」
「だろう、つまりは里美だってトップ・プロを目指しているんだ。ホステスだってプロ根性は必要だろう?」
次回に続く
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