中沢家の人々(121)

「出来る事なら、ホステスだけで終わるんじゃあなく、お店の一軒も経営してみたいぐらいの事は里美だって考えたりするだろう。そう顔に書いてある様に見えるが、違うかい?」
沼沢は里美の目を正面から見据えて尋ねた。彼女はハッとした表情で少し狼狽(うろた)えたが、すぐに自分を取り戻し
「そんな大それた事は考えた事もないわ」と、
口では答えたが、目の色は別の何かを語っていた。その里美の表情の変化を鋭敏に感じ取り沼沢は更に聞いた。
「そんな事はないだろう。例えば俺が経済的支援をしても良いと言ったらどうする。それでも自分の店を持ちたいとは考えないか?」
里美はニコっと笑って、
「とても素敵なお話しだけれど、何か後の見返りが怖そうだわ」
と、答えた。沼沢は苦笑まじりに、
「そう言うと思ったよ。里美はプライドが高いからな…」
「そんな事もないわよ。ただ人のお金を頼っていたら、その人との関係しだいでは急にお金が行き詰まったりもするんじゃあない」
「さすがに里美の考えは深いな。やっぱり店を経営するだけの資質は十分にありそうだな…そうなると里美一人で、どうやって自己資金を作るかが問題となるか!」
里美は当惑気に、
「銀座や六本木にお店を構えるなんて事は、ちょっとやそっとのお金で出来る訳もないでしょう。その自己資金を蓄えるなんて事を真面(まとも)に考えたら30年や40年はかかる話で、私はおばあちゃんになってしまうんじゃあない」
「真面に考えたら、里美の言う通りだ。しかし、現実には20才代で株取引をやって年間に1億円以上のお金を確実に儲けている頼もしい女性だって、世の中には存在するんだよ」
「本当に!…そんな人がいるの。作り話でしょう、とても信じられないわ」
「俺がわざわざ嘘を言っても仕方がないだろう。人生の勝負に必要なのは興味と努力それに執念かもしれない。里美の立場で考えるならば絶対に自分のお店を持ちたいと云う、熱い思いじゃあないかな。別に今の雇われホステスで満足しているなら俺が口を出す事は何もないよ」
そんな沼沢の少し突き放した言い方に、里美は幾らかムッとした顔になりかけたが、すぐに社交上の笑みを取り戻し
「そりゃ私だってお金は欲しいわよ、でもそんな簡単に株取引なんかで利益なんか出せるのかしら!…私には全く自信がないわ」
「そりゃ素人が簡単に儲かる様な世界じゃあないのは事実だ、だから里美が興味を持つなら俺が指導しても良いと考えているんだがな!」
「それって沼ちゃんの言う通りにしたら絶対に儲かるって事なの?」
「そんな単純な話ではないが、当分の間は俺が里美の家庭教師になったつもりで頑張って指導するつもりだ。しかし理論ばかり話をしていても恐らくは、直ぐ嫌になるだろう。その為には実際に自分のお金を張ってみなければ、理論も簡単には身に付くもんではないし…だからと言って里美自身が理解出来ない事に、お金を使うのも嫌がるだろと思って俺なりに色々と考えてみたのよ」
里美は興味ありげに少し身を乗り出して来た。
「どんな風に考えたの?」
と、甘える様な囁く様な声で聞き始めた。目がかなり真剣味を帯び出している。
次回に続く

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