霜月の夕暮れ(22)

 医師から出されたアリセプト3mgを母に服用させて1週間が過ぎた頃から、少しずつ薬の効果が出始めたのか「物忘れ」が目立たなくなって来た。副作用の消化器症状も見られなかった。スーパーでの買い物や台所仕事もそれなりにこなしていた。
それでも黙っていると母の吉子は時々アリセプトを飲み忘れる事があった。だからと言って認知症が一気に悪化すると云う訳でもなかった。
母は薬を飲むのを嫌がった。
「一体、何で毎朝こんな薬を決まって飲むのさ。私は何処も悪い所なんかないんだ、薬なんか飲みたくないよ」
そんな母を宥めるように伸枝は、
「この薬は動脈硬化の予防薬よ、お母さんは未だ73才よ、まだまだ若いわ…ボケる年ではないでしょう。もっとこれからの人生を楽しまなければ面白くないんじゃあない…だからお薬はちゃんと飲んでね。それで元気になって色々と温泉巡りもしたいでしょう?…私も付き合うから日本中の温泉を回ってみない!」
「そうかい、それは楽しみだね。それなら私も真面目に薬を飲むよ」
と、母は目を細めた。
アリセプトを服用させて5日目頃から伸枝は会社に顔を出し始めた。結局は2週間も会社を休んでしまった。仕事は山の様に溜まっていたし、職場での視線も何処か冷たく感じられた。
その負い目を拭い去るかの様に土日も会社に出勤した。
「グルメ探し」の企画も新しく練り直さなければならない。
そもそもグルメとは何か?…それはフランス語のgourmetから由来し、食通。美食家などと解釈されている。昨今ではB級グルメと云う言葉が世間では大きく喧伝されているが、その意味する事は、安価で、贅沢でなく、庶民的でありながら、おいしいと評判の料理のことである。1985年、1986年ころから使われるようになっている用語・概念であったが、2006年ころからは、各地で、安価で庶民的な料理を新たに造り、それを自地域のものとして地域おこしに活用しようとする試みが増え、その結果、「B級グルメ」と言っているのに、それ全般を指さずに、特定の地域に結びつけようとした料理、つまり「B級ご当地グルメ」に焦点が当たることが増えてきた。
このような「B級(ご当地)グルメ」は、郷土料理とは大きく異なっており、歴史が浅く、農山漁村の生活に根付いたものではなく、基本的に近年になって開発された料理、作為的な料理である。また「町おこしのため」と称していても、実際には、特定の飲食店や特定飲食店グループが流行りに便乗して自店・自グループの目先の金儲けのためだけにやっていることが増え、批判されるようになっている。
では、B級グルメに比してA級グルメとは何であろうか?
名前に「A級」と入っていることから、おそらく多くの方は高級感溢れるハイレベルな料理を想像されるのではないだろうか?
実際に、A級グルメは宮廷料理や高級料理を指す言葉として世間に浸透している。
しかし、A級グルメ本来の意味は、現在世間一般的に知られているものと大きく異なっていた。
A級グルメという言葉が発祥したのは、新潟県であるが…
新潟県南魚沼市に編集部を置いている雑誌『白遊人』の編集長・岩佐十良氏が、2010年に「雪国A級グルメ」として明文化したことがきっかけである。
 雪国A級グルメとは、雪国の「食」の魅力を守り受け継いでいきたいという想いから始まったプロジェクトで、「食材の産地を公表できるもの」「安全性に配慮した食材を雪国伝統の調理方法で提供すること」などがコンセプトとなっていた。つまり、A級グルメとは本来、安全性の高い食材を使った雪国の伝統料理を表す言葉なのだ。
地域に伝わる伝統の味、安心・安全性に配慮された調理法、新鮮で豪華なご当地食材…
「これぞA級グルメ!」の定義かもしれない。
次回に続く
関連記事

コメント