霜月の夕暮れ(48)

伸枝は飛び上がらんばかりに驚いた。
「そんなに早くですか?」
医師は少し詫びる様に、
「急性期の病院では患者さんの入院日数が原則18日以内と決められているものですから…もちろん個々の病状によって事情は違いますので、一ヶ月以上入院する患者さんも出ては来るのですが、それでも病院全体としての平均は18日以内にする規定があるのです」
と、説明した。
「僅か18日ですか?…3ヶ月なんて話を聞いたことがありますが…」
「それは、かなり古い話だと思いますが…18日でもアメリカやヨーロッパと比べると未だ長い方ですよ」
と医師に言われ、伸枝は返す言葉を失った。さらに医師は畳み掛ける様に、
「ともかく医療相談室で、次に行くべき療養型の病院を探して下さいね」
と、言って来た。伸枝は不承不承「はい!」とだけ答えた。
その足で1階医療相談室に出向き、療養型病院の意味を尋ねる。相談員の女性は丁寧に教えてくれた。
「急性期の病状は回復しても、自宅に帰るには心配な方が、食欲の改善やリハビリを目的にして長期的な療養をする病院です。しかし、現実には一つの病院の中で急性期病棟と療養型病棟を合わせ持っている所も多く、これをケアミックスと言うのですが、わりと安心して転院が出来ると思いますよ…」
と言われ、伸枝は気持ちが楽になって来た。それから幾つかの病院を紹介してもらう。病院案内のパンフレットを数枚もらって、その日は家に帰る。
しかし、伸枝にはそれでも未だ釈然としない気持ちが残った。一応の理屈は分かるが母の食欲は未だ改善せず、胃カメラの検査さえ実施されていない状況で、ただ退院だけが急かされているのだ。何かベルトコンベアー式に患者が処理されている様な気さえして来る。
次の日は会社を休んで、幾つかの紹介された病院を回った。何処も建物自体は綺麗だが、今入院している都立病院に比べると外来窓口の活気が違う。それでもケアミックスの病院は、未だ一般外来もやっているので外来待合室に患者さんは10数名以上はいたが、療養型の専門病院となると、待合室にいる患者さんはまるで見あたらない。病院と云うよりは老人ホームに近い雰囲気である。何か母親を転院させるには少しばかり抵抗を感じた。
翌日も伸枝は会社を休んで母親のいる病院に出掛ける。先ずは医療相談室に行き昨日の女性相談員と面談をする。
「パンフレットを頂いて、自分でも幾つかの病院を見て来たのですが出来ましたらケアミックスの病院を、ご紹介頂きたいのですが…」
と、伸枝は頼んだ。
「分かりました、それでは私の方でベッドの空き状況を確認してみます。
え~と、ご住所は田端ですよね。やはりご自宅に近い所が良いのでしょうか?」
「はい、それはもちろん!」
「ですけど、東京23区内ですと入院費はかなり高くなりますよ…」
「えっ、場所によって違うのですか。それで幾らぐらいになるのですか?」
「都内ですと、介護職員の給与水準も高いものですから、療養費も高めになってしまうのですね。入院費用は、患者さんによっても病院によっても違いますが、一般的には一ヶ月で20万から25万円ぐらいと云った所でしょうか。個室を希望されるとさらに高くなります」
「そんなに高いのですか?…この病院ですと、そんなには掛かりませんでしょう!」
「それはもう、都立病院ですから…」
次回に続く
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