想い出は風の彼方に(40)

こうして暑い夏期講習を私達は仲睦まじく、学習意欲を落とす事なく成績を向上させていた。9月の校内模試で私は12番に、彼女は41番まで上昇して来た。彼女のAクラス入りも射程内に見えて来た。
10月の校内模試でも二人は十分な手応えを感じていた。校内模試の答え合わせにも共に熱が入った。予備校には5時までしかいられない。夕方からは現役の高3が授業に入って来る。日中の予備校生は、それまでには校内を出なければならない。何時もは、この時間までには二人とも家路に着く。
しかし、この日に限って答え合わせに熱中して駅近くの喫茶店で答え合わせの続きを行なった。
この模試の結果では彼女もAクラス入りが現実のものとなって来る。一問一問の答え合わせにも真剣味が以前よりは強い。時間の経つのも忘れ意見を交換した。喫茶店の時計は7時を指していた。何時もよりは、かなり遅くなって来た。私の方からにこやかに声をかけた。
「あっ、もう7時だ。そろそろ帰ろうか?」
「そうね、お腹も空いて来たし」
そう言って彼女も笑顔で応じた。
「何か食べて行く?」
と、私が尋ねた。
「ううん、良いわ。母がご飯を作って待っているし…それに余り長い間、貴方と一緒にいると別れるのが逆に寂しくなるから」
と言われ、私の心に小さな波紋が広がった。それまで何とか抑えていた性的欲望が眠りから覚め出して来た。確かに、これ以上彼女と一緒にいると私の心のバランスも崩れてしまうかもしれない。その愛おしさに、自分の中の男が制しきれなくなるかも…それでもそんな妄想は打ち捨て、何時もの電車に乗って二人は帰路に着いた。
10月とは云え残暑は厳しく電車の中はラッシュアワーの時間と重なり、蒸し暑かった。物凄い人混みの群れで、彼女と私の立つ場所も人の波に流され二人の間は一駅づつ遠ざかっていった。何時の間にか私と彼女の間には4~5名の人達が立ち塞がってしまった。4つ目の駅を過ぎた辺りから彼女の隣には20才代後半と思われるチンピラ風の男が、ぴったりと寄り添い始めた。しばらくして彼女が困った顔で、私に助けを求める視線を送って来た。少しの間、私は彼女の視線の意味を気づかなかった。
しかし、揺れる電車の中で人混みの隙間をかいくぐって私は彼女の方に一歩近づく事が出来た。その私の目に驚くべき光景が飛び込んで来た。さっきのチンピラ風の男が彼女の臀部を何気ない顔をして幾度となく触りまくっているのだ。私は慌てて人混みの中を押し分けて彼女の近くにと擦り寄って行った。そしてチンピラ風の男の手を、しっかりと捕まえて…
「なにをしているのだ、この痴漢野郎」
と、怒鳴りつけた。しかし私の怒声など男はまるで無視して、
「俺が何をしたって?
てめえ、生学(せいがく)だろう。そんな半端野郎がこの俺に因縁をつけると云うのは、良い度胸じゃあないか!」
そう言うなり私の手を逆に捻じ上げて来た。腕力の差は一目瞭然であった。受験生の私は体力的もかなり落ちている。日常的に喧嘩慣れをしているチンピラ男とは比較にならない。
次回に続く
関連記事

コメント