想い出は風の彼方に(43)

巡査部長は苦笑いをしながら、
「それじゃあ、お前の線からガサ入れ(家宅捜査)をしたんじゃあないと云う事にしてやっても良い。その代わり全てを自白するんだな!」
「分かりました。私の事を隠して頂けるなら何でもお話をします」
「よし、分かった。先ず一番目の質問はお前が所持していた覚醒剤は、何処から手に入れたんだ?」
「ええ、知り合いの仲買人からです」
「何処の仲買人だ?」
「旦那、それを答えるのは許して下さいよ。そんな事をペラペラ喋ったら、俺はただじゃあ済まないですよ」
「お前は今、全てを正直に自白するって言ったばかりじゃあないか。大丈夫だ、その仲買人の名前を聞いてもお前の名前は絶対に出さないから、その名前を言ってみろ。まさか仲買人なんて嘘じゃあないのか?…本当は組の事務所から持ち出して来たんだろう」
「旦那、旦那、そんな恐ろしい事を言わなで下さいよ」
「やっぱり、そうなんだな!」
「旦那、これ以上は勘弁して下さい。これ以上話したら、俺は命が幾つ有っても足りないじゃあないですか」
「だから何度も言っているだろう。お前の名前は絶対に出さないから全てを自白しろって…」
「本当ですか、本当に私の名前は隠し通してくれますか」
膝をガタガタ震わせながら、痴漢男は全身に冷や汗をべっとりかいていた。
「お前の事は必ず守ってやる。もうこれ以上は何度も言わせるな!」
「分かりました。旦那がそこまで言って下さるなら全てを話します」
「やっぱり組の事務所から持って来たのだな?」
「旦那に合っちゃ敵(かな)わないや、仰る通り事務所から持ち出して来ました」
「馬鹿野郎、最初から素直に話せば良いんだ。余計な手間を掛けやがって…」
「旦那、これで私は返して頂けるんで…」
「甘えるんじゃあない。お前には当分、臭い飯を食わせてやる」
「しかし、それじゃあ話が違うんではないですか?」
「何も違わないよ。お前を守ってやるとは言ったが、釈放してやると言った覚えはない。それにお前もここに居る方が安全なんだ。留置場に居れば誰もお前に手は出せないしな!」
「一体、何日ぐらい留め置かれるので?」
「大した日数じゃあないよ。10日か、そこらだ。一番の目的はお前の話が本当かどうか裏を取る必要がある。それにはお前を確保して置かなきゃあならないだろう。
ともかく事務所をガサ入れして、お前の話が本当かどうか裏付け調査をする必要がある。その事実が確認出来たら、お前は返してやるさ…」
「本当ですね、10日ぐらいで私は許して頂けるんですね」
「あゝ、書類送検ぐらいで済ませてやる」
男は涙をボロボロこぼしながら、
「必ず約束は守って下さいね」
そう哀願する様に取り調べ官を見上げた。
「心配するな、10日もすれば間違いなく返してやる。今後は痴漢なんてしない事だな、そんな下らない事でこんな事になったんだ!」
「分かりました、もう二度と馬鹿な事はしません」
次回に続く
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