想い出は風の彼方に(45)

10月に入って、なおこもAクラス入りを果たした。それに伴って二人の志望校の目標もかなり上がって来た。私は東大理IIIか東京医科歯科大に、なおこは東京医科歯科大の歯学部にと最難関校の大学を目指し始めていた。二人は心ひそかに同じ医科歯科大に合格する事を夢見ていた。医学部と歯学部と学部は違っても同じ大学の下であれば会って、昼食を共にする機会も増えるだろうと淡い想いを抱いていた。11月の校内模試で私は12番に彼女も31番まで急上昇して来た。12月初旬の進学相談で私は東大理III類を彼女は東京医学歯科大の受験を指導教員から勧められた。12月最後の校内模試で私の東大合格率は80%以上と出た。彼女の医科歯科大合格率も80%以上であった。私は大いに悩んだ。
東大に行くべきか、彼女と同じ医科歯科大に行くべきかを…
彼女は盛んに私の東大行きを勧めてくれた。私はやや不満気に、
「そうなったら、僕らは別れ別れになってしまうじゃあないか…」
「大学が違っても別れ離れにはならないんじゃあない。だって、毎週日曜日にデートすれば良いのよ。それとも東大に行って、もっと素敵な彼女を見つけてしまうかな?」
「何を馬鹿な事を言っているんだ、そんな事は絶対にあり得ない!」
私は少し睨む様にして彼女の顔を見た。帰りの電車の中で彼女は私の手を握りしめながら耳許で囁いた。
「嫌ね、本気しているの。私は絶対に貴方を離さないわ。学生結婚だってあり得るわ…どんだけ貴方の事が好きなのか知らないんでしょう」
私も負けずに彼女の耳許で囁き返した。
「今、直ぐに君が欲しいって言ったら…どうする?」
「別に構わないわよ…貴方が私に望む事で拒否する事なんて何もないもの」
私は自分の男性自身が膨張して来るのを抑制するのに、かなりの苦労を強いられた。しかし、大学受験を直前にしてそんな本能に負けた行為に彼女を引きずり込む事には、私の理性が許さなかった。
「有難う、なおちゃん。大学合格するまで僕は我慢する。折角ここまで努力して来たんだ。こんな所で本能に負けた行為をしてしまったら、僕は自分が許せない。一緒に無事志望校に合格できたら、その時は二人で箱根にでも旅行に行こう。行ってくれるよね?」
「当たり前じゃあない。行くに決まっているじゃあない。貴方にそう言われると益々勉強の励みになるわ」
そんな彼女の言葉を聞いて私は愛おしさで心が揺れ動いた。しかし今は耐えるしかない。それこそが真に彼女を愛している事に繋がって行くのだ。そう自分自身に言い聞かせ自分を何とか律した。
こうして年も明け一月も中旬となり、入学願書も提出して最後の猛烈な追い込みとなった。一月下旬のある日、珍しく彼女が予備校に顔を出さなかった。気になって昼休みに彼女の自宅に電話をした。彼女の母親は私達の事を充分に理解していたので、気持ち良く応対してくれた。
「ご免なさいね、なおこは少し風邪気味だったので今日は休ませたの。お気になさらないで貴方は勉強に励んで下さい。なおこは今、寝ていますので貴方からの電話は申し伝えておきます」
次回に続く
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