想い出は風の彼方に(49)

1階から母の声が聞こえて来た。
「浩司、いるの?」
「はい、何か用…」
「誰かお友達が来ているの?」
「うん、この間の綾子さんだよ」
「まあ、あの可愛いお嬢さんがいらっしゃっているのかい。お茶かコーヒーと、どちらが良いのかね」
「綾子ちゃん、どうする?」
「私なら、どうぞお構いなく」
「まあ、そう言うなよ。お袋は君に会いたがっているんだよ」
「そう言う事でしたら、私はコーヒーを頂きます」
「お母さん、それならコーヒーを頼むよ」
そして浩司は急いで布団の乱れを直した。綾子も慌てて手伝った。
しかし浩司には幾らか不満が残った。自分の中の欲望が中途半端な所で断念せざるを得なかったからだ。ともかく元の体勢に戻って英文法の参考書を開いた。しばらくすると母がニコニコと笑って、
「いらっしゃい。綾子さんでしたわね。浩司、何故こんな所で勉強をしているの?…1階のリビングでなされば良いのに」
「2階の方が気が散らなくて良いんだよ」
「それでも若いお嬢さんに入ってもらう場所ではないでしょう」
「おばさま、私の事ならお気になさらないで下さい。浩司さんに勉強を教えて頂いているだけですから、何処でも同じです」
「そう、ご免なさいね。男の子は無神経な所があるから…」
「分かったから、お母さん1階に戻ってくれない。そんな所で話しこまれたら、まるで勉強にならないから」
「はい、はい、それでは私は退散しましょう」
そう言って母はコーヒーと焼き菓子を置いて1階に下りて行った。
二人は勉強への意欲をすっかり無くしていた。妙な形で性に目覚めてしまったのかもしれない。しばらくコーヒーと焼き菓子を口にしていたが、今度は浩司の方から綾子をベッドの上に誘い込んだ。
激しいキスの雨を降らせた。綾子も自分からブラジャーのホックを外した。若い乳房の谷間に顔を埋めて、浩司は恍惚状態に入りかけていた。すると1階からまた母の声がした。
「浩司、浩ちゃん。ちょっと下りて来て、お願いだから…」
全く一体何の用事なのだ。この時ほど母を恨めしく思った事はなかった。しかし、下りて行かない訳にも行かず、彼はまた洋服の乱れを直して渋々1階に下りて行った。
「お母さん、何の用事なの?」
どうしても浩司の声は尖ってしまう。
「綾子さんの夕食はどうしたら良いかね」
そんなどうでも良い用事で呼んだのか、とも言えず…
「そうね、彼女に確認しないと何とも言えないが、恐らく食べて行くと思うよ」
「そうかい、それならスーパーにもう一度行って来ようかね。他に買い忘れた物もあるし、それと浩司、これだけは言っとくが英語の勉強も良いが、綾子さんに如何(いかが)わしい思いを抱いたりしちゃ駄目だよ。女の事ではお母さんがどれだけお父さんに泣かされたかは、お前も知っているだろう。お前の友人の妹さんなんだし、相手は高校生なんだよ。何か間違いがあったらお母さんが絶対に許しませんからね」
そう言われて、浩司は言葉を失った。
次回に続く
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