想い出は風の彼方に(50)

2階に戻って、彼は今の母の言葉を全て綾子に話した。綾子は真っ赤な顔をして、
「どうしょう私、もうこの家に来れないわ!」
と言って、泣き出しそうになった。
「大丈夫だよ、僕たちが真面目な交際をしていれば良いだけだ。今日は少しは羽目を外し過ぎたかもしれない。母が一階にいるにもかかわらず、それすら忘れ僕は自分の欲望に負けていた。母に気付かれたのも当然といえば言える」
「でも最初に浩司さんを誘ったのは私の方だわ。罪は私の方にあるのよ」
篠木さんと呼んでいた綾子が何時の間にか、浩司さんと言い始めていた。最後の一線は越えなかったものの、今や二人は完全に恋人同士となっていたのだろう。
「綾ちゃん、少し前から僕も君を女性として意識していた。だから母に指摘された様に、自分の部屋にわざわざ君を引き入れたのだ。本当に勉強だけするなら1階の居間でするべきだったのだ。それには僕の中にも意識しない下心があったのだろう。悪いのは僕の方かもしれない。女性とこんな体験をしたのは、今日が初めてだ、それで我を忘れてしまったのだ。言い訳に過ぎないけど」
綾子は目を輝かして、
「本当に、私が初めてなの。それなら嬉しいわ。私も男の人にあんな事を許したのは初めてよ。だって浩司さんの事がどんどん好きになって行くんだもの」
綾子のそんな言葉に、浩司はまた彼女を抱きしめてしまう。しかし、直ぐ我に返って彼女を離した。
「君は見る度に可愛いくなって行く。他に言い寄る奴も、かなりいるだろう」
綾子はクスクスと笑い出した。
「な~に、それ嫉妬って言うの。馬鹿みたい、私は浩司さん以外の男性なんか興味ないもん」
そう言われて、浩司はまた彼女を抱き寄せ唇を重ねてしまう。彼女は何の抵抗もしなかった。母の忠告が無ければ、彼等は間違いなく愛の河にそのまま溺れてしまっただろう。
しかし母の忠告が頭の中から離れず、浩司は理性を何とか取り戻しベッドから起き上がった。そして静かに語った。
「僕は君を見ていると、欲望の渦に飲み込まれそうになる。でも今はじっと耐える時だと思う。君は17才だ、成人にもなっていない。僕だって21才の大学生で、未だ親に養われている身だ。二人の間で子供が出来ても責任が取れる訳ではない。だから、これ以上の行為はただ本能と云う欲望に負けただけだ。僕等は責任が取れる大人になるまでは、我慢すべきだ。
そして、ゆっくりと二人の愛を育んで行くべきだと思う」
綾子は頬に涙を落としながら、コックリと頷いた。
「私も大学に行き、浩司さんに寄り添えるだけの教養を身につける努力をします。始めは短大ぐらいしか考えていませんでしたが、やはり4年制の大学を目指します。これからもずっと付き合ってくれますよね!」
「もちろんだ。君が一流の大学に合格出来る様に僕も精一杯協力するよ。その為に必要なら週に何度でも勉強の手助けはするつもりだ」
次回に続く
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