想い出は風の彼方に(59)

「それなら話は早いや、お母さん軍資金をお願いしたいのですよ」
「なんの軍資金?」
「綾子ちゃんと2日ぐらいの旅行に行って来たいんです」
母の鈴子は少し驚いた顔をして、
「旅行に…綾子ちゃんのお母さんは許可なさったの?」
「うん、僕となら良いって…大学に行って変な虫が付くぐらいなら浩司さんに始めからガードしてもらっている方が安心だって…」
「あなた、それで責任が取れるの。それって事実上の婚前旅行みたいなものじゃあない!…赤ちゃんでも出来たらどうするつもり?」
「そうはならない様に十分に注意はするさ…」
「いくら注意するって言ったって、勢(はず)みと云うものがあるでしょう」
「まあ、そう言われちゃうと返事のしようがないけど…お母さんは綾子ちゃんが、将来この家の嫁になるのは反対なの?」
「そうは言ってないけど18や20才ぐらいでは、少し早すぎない」
「でも男女の出会いは一つの縁だからね、それは運命(さだめ)とも言えるし、大体僕はこの先も彼女以外の女性に興味は湧かないと思うよ…」
「本当かしら…あんたは未だ22才でしょう。これから色んな出会いがあるんじゃあないの?」
「お母さん、僕がそんな浮気性(しょう)に見える?」
「そうは言ってないけど…」
「ちょっと昔なら、僕ぐらいの年齢で結婚するのは普通だったでしょう」
「そりゃそうだけど…分かったわ。でも自分の行動には責任を取ってね。綾子ちゃんを裏切る真似だけはしないって約束出来る?
お母さんもあの娘(こ)の事は大好きなんだから」
「彼女を決して裏切る事はしないって約束出来ます」
「分かったわ、そこまて言うなら二人の旅行は許可しましょう」
そう言って、鈴子は浩司に10万円を手渡した。
「有難うございます。心から感謝します。やっぱり僕のお母さんだ」
「お前は何時からそんなに口が上手になったんだろうね、もうお母さんの手には追えないわ」
「そんな事はないよ、僕は何時までも変わらないお母さんの可愛い息子ですよ」
「全く敵(かな)わないね、もう良いからお休み」
「はい、それではお休みなさい…お母様」
こうして浩司は母から何とか10万円をせしめた。
翌日の朝10時半、二人は駅近くの旅行会社に出掛け箱根旅行のスケジュールを相談した。日曜からだと旅館も取りやすい。箱根湯本駅からはレンタカーの予約を取る。旅館は芦ノ湖周辺にした。月曜からだとスケジュールはもっと立て易いのだが、浩司には春合宿の予定が先にあった。四国の大歩危小歩危ではチームのサブリーダーリーダーになっていたので、この日曜からの箱根旅行が限界だった。
この旅行の後は、春合宿の旅行日程を部員全体で協議しなければならない。
あれこれと忙しい日々であったが、綾子との旅行は是非実現させたかった。
次回に続く
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