想い出は風の彼方に(61)

翌日の月曜日は好天気だった。二人は昨年開館したばかりの彫刻の森美術館に行ってみる。箱根の大自然に囲まれた広大な戸外の美術館は、雄大さの一言に尽きた。1時間では、とても歩き回れない。
部活の山歩きで鍛えている浩司と違って、大学受験で体力が落ちている綾子には少し苦労だった。そんな彼女を労って、休み休み散策した。それでも綾子は元気で明るかった。ともかく浩司がいつも自分の横にいる。甘えたり、拗(す)ねたりしても気を遣う親もいない。
「浩ちゃん、もう疲れた。歩きたくない、おんぶして」
と言っても、ニコニコ笑って
「本当におんぶするか、綾子をおんぶするくらいは大雪山の縦走から比べれば何でもない事だ」
そう言って、本当におんぶしょうとする。さすがに他の観光客の手前、18の若い娘がおんぶしてもらう訳にもいかない。
「もう、イジワル」
意味も無く甘える。誰も見当たらない所では、浩司も綾子の乳房にセーターの上から触ったりする。
「もう、エッチ!」
そう言いながら綾子は笑っている。小さな子供の様に戯(じゃ)れ合っていた。それは正に恋人たちの季節だ。
美術館で昼食を取り、次は大涌谷に出かけた。地獄の釜茹での様な山岳の風景は大小の岩また岩だ。美術館の様な、なだらかな道と違ってゴツゴツとした登り道には骨が折れる。綾子は浩司の手に引かれ付いて行った。彼は何でも無い顔をしている。やはり部活で付けた体力は伊達じゃあなかった。
「この人に手を引かれ、一生寄り沿って生きて行きたい」
急に綾子の脳裏にそんな想念が浮かび上がった。そして今、こうしている瞬間も胸一杯に幸せを感じていた。
旅館に戻ったのは5時だった。仲居から大浴場を勧められたが、浩司と二人だけで入る部屋の風呂の方が比べものにならないくらい素晴らしいと思った。仲居がお茶を置いて行った後は、昨日と同じ様にすぐ部屋の鍵をかけた。そして浩司にしなだれ掛かる様にして仲良く風呂に入った。身体の何処を浩司に触れられても心地良かった。何もかも彼の好きな様にして欲しかった。
浩司も綾子の身体を隅から隅まで愛撫し尽くした。
夕食にビールを一本注文した。綾子もグラスに半分だけ飲んだ。浩司もグラスに2杯飲むぐらいで十分だった。9時には寝具が敷かれた。テレビを見る事も無く、二人はまた抱き合った。尽きる事の無い欲望だったが、11時前には抱き合ったまま二人とも熟睡してしまった。朝の光に包まれ7時前には同時に目を覚ます。全裸のままだった。お互いの姿を見て共に笑みがこぼれた。
旅館を10時に出て箱根湯本でレンタカーを返した。その後は駅前でお土産屋を見て歩く。
色々と悩んだが、温泉まんじゅうを夫々の家に買った。昼食は湯本の商店街で食べた。
これで旅行が終わりかと思うと、二人の胸にはふとした寂しさが湧き上がった。
次回に続く
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