想い出は風の彼方に(64)

翌日、浩司は9時に目を覚ました。14時間も寝た事になる。朝の第一声が、
「お母さん、お腹が空いたけど何か食べさせてくれる…」
だった。母の鈴子は呆れ顔で
「まあ、この子は起きた早々に…まるで子供みたいね」
そう笑いながら、直ぐに朝食の準備をしてくれた。味噌汁に焼き魚、納豆に豆腐と出された物は全て食べ尽くし、ご飯は3杯もお代わりをした。
「本当によく食べるわね。合宿中は、そんなひもじい思いをしていたの?」
「そんな事もないけど、やっぱりお母さんのご飯は美味しいよ」
「そう、どうも有り難う。あっ、そうだ。昨夜綾ちゃんから電話があったわよ。直ぐにかけて上げたら!」
「何だって?」
「そんな事をお母さんは知りませんよ。自分で確かめたら」
「そうだね、そうする」
浩司は食後のお茶を一杯飲んで、綾子の所に電話を入れた。直ぐに彼女が出た。
「もう、ずっと電話を待っているのに…」
「ご免、合宿から帰って来たら風呂に入ってそのまま寝てしまったんだ」
「うそ…!」
「別に嘘なんかついてないよ」
「じゃあ、すき焼きの肉を500gも食べたのは誰なの?」
「何で、そんな事を知っているの?」
「おばさまが言っていたわよ。すき焼きもお刺身も腹一杯食べて、直ぐに寝てしまったって。すき焼きを食べる時間があっても綾子に電話をする時間はなかったの…!」
「そう言われると、返す言葉もないが…」
「じゃあ、その事は許して上げるから今日一日は私と付き合って」
「分かった、そうする」
「あら、義務的に言っているの。別に迷惑なら会わなくても良いのよ」
「そうは言っていないよ。どうしたの、今日はいやに絡むね。何か嫌な事でもあったの?」
「別に…ともかく私に会いたいなら直ぐに来て!」
「何か恐そうだな、取り敢えず11時までには行くよ」
「きっとよ…」
「はい、分かりました」
「もう、私の気持ちなんか何も知らないで」
「何を怒っているのか分からないけど、ともかく約束通りに行くよ」
電話の向こうで、綾子の機嫌は少し直った感じに聞こえた。
浩司は急ぎ着替えて、綾子の家に向かった。11時前には何とか着いた。玄関前では綾子がすでに立っていた。
「綾ちゃん、こんな所で待っていたの?」
「知らない、浩ちゃんの馬鹿!」
そう言って彼女は浩司に抱きついて来た。そんな彼女を受け止めながら、
「綾ちゃん、どうしたの?」
「私達、2週間も会っていないのよ。それなのに電話もしないでお肉を腹一杯食べて寝てしまうなんて…あんまりじゃあない」
「そうか、それで怒っていたのか!」
「そりゃそうよ、綾子の事が本当に好きなのかって疑ってしまうわ」
次回に続く
関連記事

コメント