想い出は風の彼方に(69)

「しかし1952年に発見された、フェノチアジン系の抗精神病薬クロルプロマジン(商品名コントミン、ウインタミン)の発見で、ロボトミー手術は一気に減少して行ったんだよ。クロルプロマジンは、フランスの海軍外科医、生化学者アンリ・ラボリ (1914-1995) によって発見されたメジャートランキライザーだが、トランキライザーって分かる?」
浩司は少し考えて
「精神安定剤の事ですか」
と、答えた。
「そうだね、その通りだが…もう少し詳しく説明するとトランキライザーには、マイナートランキライザーとメジャートランキライザーがあって、マイナーは抗不安薬と言われ、メジャーは抗精神病薬とも言われているんだ。
この辺りは医師の国家試験にも出る可能性があるから、よく覚えておくんだね」
「はい、しっかり頭に入れておきます」
そう素直に、浩司は答えた。
「次に精神分裂病(現在の統合失調症)の治療薬を抗精神病薬と呼び、この抗精神病薬の1つとしてクロルプロマジンがあるのだ。
クロルプロマジンは精神分裂病(統合失調症)の中でも、幻聴や妄想などが表れる陽性症状に対して著明な効果を現し、ドパミン遮断効果(その作用機序は、脳内の中枢神経系で、興奮や妄想を抑制)が有意に認められているんだ。
そして、この様に神経外科、抗精神病薬発見と、治療法が次から次へと変わって行く過程で、フロイトを中心とする心理分析の治療は徐々に廃(すた)れて来たんだよ」
副院長は学生に講義する様に懇切丁寧な説明をしてくれた。しかし、未だ精神科の授業も完全には終えていない浩司には半分ぐらいしか理解が出来なかった。
医局で1時間以上の話を聞いて、実際の病棟に案内してもらう。先ず20畳ぐらいの処置室で「電気ショック」の現場を見せてもらった。
電気ショック療法は、電気痙攣療法(でんきけいれんりょうほう)ETCの事で、電撃療法(electroshock theraphy: EST)とも言うのだが、頭部(両前頭葉上の皮膚に電極をあてる)に通電することで人為的にけいれん発作を誘発する治療法の事を言うんだ。
ECTはインフォームド・コンセントを得たうえで、大うつ病、躁病、緊張病の治療手段として用いられているのだよ。
1938年、イタリア・ローマのウーゴ・チェルレッティとルシオ・ビニ(Lucio Bini)によって創始され、元々精神分裂病(統合失調症)に対する特殊療法として考案されたものなのだ。
日本では1939年に九州大学の安河内五郎と向笠広次によって創始され、その後は他の疾患にも広く応用されて急速に普及し、精神科領域における特殊療法中、最も一般化した治療法となっているのだよ」
との説明を受けたが、浩司には理解の出来ない治療法であった。
人間の身体に電気ショックを与える事自体が、何か治療と云う名の暴力に思えてならなかった。現実に電気ショックを受けていた患者さんの一人が心停止を起こした。治療に当たっていた精神科医は慣れた手つきで、即座に心マッサージを行い患者さんは直ぐに救命された。
次回に続く
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