想い出は風の彼方に(70)

抗精神病薬クロルプロマジン(商品名コントミン、ウインタミン)でコントロールしにくい患者さんに、この電気ショック療法が利用されるらしい。
気分症状と運動症状の両方にしばしば効果が認められると云う。薬物抵抗性がある場合などの疾患の末期に用いられるのが典型的であるらしい。
1961年当時の厚生省保険局通知「精神科の治療指針」による適応症として『精神分裂病、躁うつ病、心因反応、反応性精神病、神経症、神経衰弱、麻薬中毒、覚せい剤中毒、酒精中毒性精神病等』があげられていた。
ECTは1930年代から実施されているが、その作用機序については充分に解明されていないらしい。それでいて年間使用頻度は1000万人を超える年もあるから驚きだ。
しかも、以下のような副作用が数多く報告されている。
(1)心血管系の障害:徐脈や心拍停止、血圧の低下を生じることがある。また、カテコールアミン放出を伴う交感神経系の興奮が惹起され、頻脈や血圧上昇、不整脈などが起こることもある。
現に浩司は目の前で心停止に陥った患者さんを見ていて、この様な治療法が許されるのかと、限りない疑問を抱き始めていた。
2)認知障害:通電直後に生じ、見当識障害、前向性健忘(以前の記憶はあるが、ECT後の出来事などが覚えられなくなる)や逆行性健忘(新しいことは覚えられるが、以前の記憶、特にECT施行直前の記憶がなくなっている)が見られることがある。老人に頻度が高く、多くは時間とともに回復する。失見当識・前向性健忘は比較的短時間に回復し、逆行性健忘は回復が緩徐である。また、そのまま認知機能の低下が遷延するという例も少数だが報告されている。
3)躁転:時に多幸的・脱抑制・易刺激性を伴う。双極性障害患者において特に躁転する頻度が高い。*うつ病の患者が躁状態(テンションが上がる)となる現象を躁転と言う*
4)頭痛:45%程度の患者が自覚するとされている。拍動を伴う前頭部痛を示す事が多い。
これが現実の精神医学なのか、浩司は自分が思い描いていたフロイトの世界とは、余りに掛け離れていたので失望感に打ちのめされた。
自分が追い求めていた精神科医像とは、とても相容れないものを感じた。それは拒絶反応に近いものがあった。
今日の病院見学で、副院長の時間を半日も使ってしまい申し訳ないと思ったが、彼の心は精神科医志望を断念していた。
後は虚ろな心で病棟見学を、ただ付き合いで熟(こな)していた。もう何も彼の心には映らなかった。5時近くになって、人の良い副院長に深々と礼を述べ友人の病院を去った。7時過ぎ家に戻ったが、食欲もなく一人部屋に閉じこもり天井を見ていた。自分の生きる目標を失った、取り留めのない思いで空白の時間を過ごしていた。
次回に続く
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