中沢家の人々(122)

沼沢は迷いつつ言葉を選びながら話を続けた。
「問題は里美にしっかりと儲けさせながら株取引の理論をどう教えこむかだ…」
「そんな美味しい方法なんてあるの?」
「まあ、それには当座の資金として100万円は必要になるだろう」
「でも、そんな100万円なんてお金はどうするの?…私には出せないわよ」
「そんな事は分かっている。その始めの資金は俺が出す。俺が出した100万円のお金で里美名義の株を買う。その100万円が200万円になったら、始めの100万円は俺に返し、利食いした100万円は里美のお金とする。もし万が一に始めの100万円の投資資金が無くなったら、それは俺の腹が痛むだけだ。里美には何の損害もかけない。どうだ、俺のこの考えは?」
里美はやゝ興奮気味に
「本当に、そこまでして貰って良いのかしら?」
と尋ねた。沼沢は、これなら文句はあるまいと云った顔つきで、
「里美が株取引の面白さを知って貰う為の教育資金だと思っているのよ」
里美は少し驚いた様子で、
「へぇ~教育資金なんだ、それって親が子供を学習塾に通わせる月謝みたいなものなのかしら!」
「そう考えた方が分かりやすいだろうね…」
「すると、沼ちゃんは私の保護者になるって訳?」
「株取引に関しては、確かに保護者の気持ちでいるかもしれない」
「沼ちゃんて、面白い事を考えるのね。それが本当なら私も沼ちゃんに保護されても良いかなって気分になるわ」
「それじゃあ、実際に何処かの証券会社に里美名義の口座を作るか」
二人の話は何となく纏まり、数日後には沼沢の付き添いの元に里美は彼女名義の口座を開設した。そして約束通りに沼沢は自分の手元から100万円を里美名義の口座に入金した。そして早速に株取引の仕方をあれこれ伝授し、日経新聞も購読させ、経済欄はどの様に読み解くかと手に取る様に指導をした。
そして口座開設後5日目には早くも、実際に株の買い付けを里美にさせた。
沼沢が里美に買わせた銘柄は、仕手グループから手に入れた裏情報からのものであった。その情報を得て1株250円であった銘柄を3千株買わせたのである。沼沢自身は同じ銘柄の株を5万株仕込んだ。もちろん里美には黙っていた。
二人が同時に買い込んだ銘柄は一週間ぐらいは何の動きもなく株価は250~280円ぐらいで推移していた。里美は毎日の様に日経新聞で自分が買い求めた銘柄の株価を見ていた。「葵」の店にやって来た沼沢に、里美は愚痴る様に
「全然、値段が上がって来ないわね?」
と問いかけた。沼沢はにゃっと笑って、
「まあ、一ヶ月は待ってみなよ。あと10日もしない内に500円は付けるから」と、
彼は自信ありげに答えた。里美は少し疑わしげに、
「本当に、そんな早く500円になるかしら」と、
首を傾げた。沼沢は以前の約束を確認するかの様に、
「500円を超えたら、どうする。約束通りキスはしてくれんだろうな?」
と逆に里美を問い詰めた。
「うん、その時は沼ちゃんの言う通りにする」
そう言って彼女は素直に頷いた。
そんな二人の会話がなされた3日目頃から、殆んど動きを止めていた株価は300円を超え、その2日後には400円を4日後には500円を付けた。沼沢が広言した10日目には600円になっていた。
次回に続く

しのぶさんへの回答

しのぶさんへの回答
食べる事を忘れてきた、口の中に入れても飲み込む事が分からない、ゴックンしてねと伝えても分からないで困っているとのご質問ですが。嚥下機能の低下が徐々に進んでいるもの考えられます。初期の段階ですと発声練習が効果を上げる事もあります。「あ~」とか「う~」とかをなるべく大声で言って頂きます。この発声練習により嚥下機能が回復する場合もあります。それ以外には「あ~ん」を繰り返す事により顎関節の動きを良くして嚥下機能の改善を図る方法もありますが、これらも認知症が軽度な段階に限ります。しかし嚥下機能の低下はアルツハイマー型認知症の末期とかレビー小体型認知症の合併で起きる事が多いので、そうなりますと専門医の診断と治療が必要となります。内服薬よりは点滴による特殊な薬剤により効果を上げられる可能性もありますが、これはほんの一部の専門医でしか行われていません。アリセプトとか言った薬では効果が見られていません。大学とか総合病院で「もの忘れ」外来を標榜している様な病院でも、真剣に認知症の患者さんと向き合っているかと云うと疑問を感じることが多々あります。それは高度な医療機器とか安易な薬剤に安住して患者さんの目とか身体に触れ様とはしない医師を言います。医師自身の診断能力が低下している場合もあるからです。つまりコンピュータシステムに頼り過ぎて医師としての診断能力を磨いて行ことしていない人が少し増えている様な気がします。いずれにしても嚥下機能の低下は認知症の末期像である事が多いので、それを改善させる事は容易ではありません。適切な回答とは思えませんが、今日の所はこれでお許し下さい。またの質問をお待ちしています。



はじめまして

グループホームで働いています。

利用者さん87歳、入居されてから11年です。最近、忘れて出来無い事が多くなりました。一番困るのは、食べる事を忘れてきたことです。口の中に入れても飲み込む事が分からない、ゴックンしてねと伝えても分からないです。悪い時は1日1回はあります。全然食べられなくなったらと、つい考えてしまいます。

どう対応したら良いですか?

中沢家の人々(121)

「出来る事なら、ホステスだけで終わるんじゃあなく、お店の一軒も経営してみたいぐらいの事は里美だって考えたりするだろう。そう顔に書いてある様に見えるが、違うかい?」
沼沢は里美の目を正面から見据えて尋ねた。彼女はハッとした表情で少し狼狽(うろた)えたが、すぐに自分を取り戻し
「そんな大それた事は考えた事もないわ」と、
口では答えたが、目の色は別の何かを語っていた。その里美の表情の変化を鋭敏に感じ取り沼沢は更に聞いた。
「そんな事はないだろう。例えば俺が経済的支援をしても良いと言ったらどうする。それでも自分の店を持ちたいとは考えないか?」
里美はニコっと笑って、
「とても素敵なお話しだけれど、何か後の見返りが怖そうだわ」
と、答えた。沼沢は苦笑まじりに、
「そう言うと思ったよ。里美はプライドが高いからな…」
「そんな事もないわよ。ただ人のお金を頼っていたら、その人との関係しだいでは急にお金が行き詰まったりもするんじゃあない」
「さすがに里美の考えは深いな。やっぱり店を経営するだけの資質は十分にありそうだな…そうなると里美一人で、どうやって自己資金を作るかが問題となるか!」
里美は当惑気に、
「銀座や六本木にお店を構えるなんて事は、ちょっとやそっとのお金で出来る訳もないでしょう。その自己資金を蓄えるなんて事を真面(まとも)に考えたら30年や40年はかかる話で、私はおばあちゃんになってしまうんじゃあない」
「真面に考えたら、里美の言う通りだ。しかし、現実には20才代で株取引をやって年間に1億円以上のお金を確実に儲けている頼もしい女性だって、世の中には存在するんだよ」
「本当に!…そんな人がいるの。作り話でしょう、とても信じられないわ」
「俺がわざわざ嘘を言っても仕方がないだろう。人生の勝負に必要なのは興味と努力それに執念かもしれない。里美の立場で考えるならば絶対に自分のお店を持ちたいと云う、熱い思いじゃあないかな。別に今の雇われホステスで満足しているなら俺が口を出す事は何もないよ」
そんな沼沢の少し突き放した言い方に、里美は幾らかムッとした顔になりかけたが、すぐに社交上の笑みを取り戻し
「そりゃ私だってお金は欲しいわよ、でもそんな簡単に株取引なんかで利益なんか出せるのかしら!…私には全く自信がないわ」
「そりゃ素人が簡単に儲かる様な世界じゃあないのは事実だ、だから里美が興味を持つなら俺が指導しても良いと考えているんだがな!」
「それって沼ちゃんの言う通りにしたら絶対に儲かるって事なの?」
「そんな単純な話ではないが、当分の間は俺が里美の家庭教師になったつもりで頑張って指導するつもりだ。しかし理論ばかり話をしていても恐らくは、直ぐ嫌になるだろう。その為には実際に自分のお金を張ってみなければ、理論も簡単には身に付くもんではないし…だからと言って里美自身が理解出来ない事に、お金を使うのも嫌がるだろと思って俺なりに色々と考えてみたのよ」
里美は興味ありげに少し身を乗り出して来た。
「どんな風に考えたの?」
と、甘える様な囁く様な声で聞き始めた。目がかなり真剣味を帯び出している。
次回に続く

中沢家の人々(120)

沼沢は悪びれもせずに、
「里美がそう思うならそれでも構わないが、今は真面目に株取引の話をしているつもりなんだがな!」
と、里美のそんな言い草を抗(あらが)いもせずに、沼沢は話を続けた。
里美は少し照れ笑いをして、
「ご免ね、真面目には聞いているのよ」
と、言い訳をした。
「要するに、人は何に生き甲斐を見つけるかだろう。金儲けも、若い女を口説くのも、その一つだ。ただこれだけは言えると思う。簡単に手に入る物はすぐに飽きが来てしまうものだ。困難であればある程、それを手に入れた時の喜びもまた格別なもんじゃあないかな」
「それは私にも分かる気がする」
と、彼女も同調した。
「確かに相場取引きで安定して利益を上げるのは容易ではない。しかし数少ない人達だけは20年も30年間も、いやそれ以上に利益を上げ続けている人もいるのだ。日本人にもいるし、世界中を見渡せばもっと多くの人がいる。2年や3年なら利益を上げ続けられる人達何千人もいるだろう。しかし20年以上となると100近くになってしまうだろ。30年以上と言うと数十名ぐらいにまで減ってしまう。それはプロスポーツの世界と同じだよ。野球にしても相撲にしても、トップ・プロというのは僅かな人達だ。そして、その様なトップの人達には一般庶民では考えられない様な収入が手に出来るのだ。例えば相撲なら何と言ってと千代の富士(ウルフ: あだ名)が今は全盛だろう。あの仕切り中に土俵の周囲を懸賞幕が何十枚と並ぶだろう。多い時は30~50枚ぐらいまで並ぶ事もあるよな。あの懸賞幕1枚に一体幾らの懸賞金がかけられていると思う?」
「分からない、そんな事は考えた事もないわ、幾らぐらいなの?…1枚に1万円ぐらいはかけられるの!」
沼沢はニコっと笑って、
「そんな金額ではないだろう。どう考えたって5万円以上だろう」
里美が驚いた顔で、
「それじゃあ懸賞幕が40枚も並ぶと200万円の懸賞金が一回の相撲で貰えるの、たった2~3分の勝負で!」
「その通りだ、それがトップ・プロの収入と云うものだ。昔、若乃花が土俵にはお金の塊が埋まっていると、言った話は有名な実話だ。そんなトップ・プロはスポーツの世界だけではなく、囲碁、将棋、芸能界そして株取引の世界にもいるって事だ」
「ふ~ん、何でもトップに上りつめると凄いのね。でも、私とは縁のない世界だわ。とても私が何かのトップ・プロになれるとは思えないし…」
「誰だって最初からトップ・プロになれるとは思ってはいないよ。でも、そんな里美だって『葵』ではトップホステスにはなりたいと努力しているじゃあないか。事実、トップホステスになっているし…」
そう言われて里美は恥ずかしそうな顔をしていたが、満更でもない様子で、
「まあ、まあ、沼ちゃんもお口が上手になった事…」
と言って、沼沢の言い草に肯定も否定もしなかった。さらに沼沢は話を続けた。
「そこでだ、里美は何が目的でトップホステスになる努力をしているのだろうか?…たぶんプライドとそれに見合う給料だと思うのだが、違うかな!」
里美は頷いて、
「そりゃ、そうでしょう。誰だって同じじゃあない!」
「だろう、つまりは里美だってトップ・プロを目指しているんだ。ホステスだってプロ根性は必要だろう?」
次回に続く

中沢家の人々(119)

沼沢は少しばかり、勿体ぶった顔つきで
「単純に言えば、正規のビジネス以外で多額の金儲けをしたければ商品相場とか株取引が一般的だけど、これで確実に利益を上げるのは容易じゃあない。だから、そう云った取引きをする人間の多くはチャートと呼ばれる幾つもの指標を使うのだが、この指標の読み方を覚えるのも並大抵の苦労ではない」
里美には雲を掴む様な話で何を言っているか分からなかった。それでも一様は話し相手のつもりで、
「その株取引で沼ちゃんは大儲けしているとでも?」
と、興味のない様子で尋ねた。
「その通りなんだ」
沼沢は誇らし気に答えた。
「でも、それって一種のギャンブルでしょう。確実に何時迄も儲かるって云うもんでもないんじゃあないの!」
「まあ、普通に考えれば里美の言う通りだ。しかし、儲けるには儲けるルールと云うものがあるのだ」
「どんなルールなの?」
「単純に言えば腹八分目と云って決して欲張らない事だ」
里美は意味不明な顔をして、
「失礼な言い方かもしれないけど、株取引って大体が欲張った人がするもんじゃない?それを腹八分なんて事が出来るの!」
「里美の言う通りだ、だから殆んどの人間が株とか商品相場では失敗する例が圧倒的に多いんだよ。つまり、この様な相場で打ち勝つには徹底的な自己抑制が必要となるのだが、現実にはその様な自己抑制が出来る人って云うのは1%以下の人しかいないだろうね」
「それって、沼ちゃんは徹底的な自己抑制が出来て株で確実に稼いでいるって云う話なの!」
「まあ、そこまで偉くはないが腹八分を心がけているのは事実だ。それ以上に情報収集能力が必要ではあるけどね。株式専門雑誌とか経済ニュースの多くにも神経を配らないとね」
里美は別世界の話を聞く様に、
「沼ちゃんの言っている事は難し過ぎて私の理解を超えているわ」
と、答えた。そんな里美を励ます様に、
「そんなに困難な物でもないよ。将棋や囲碁と同じだ。初めは取っ付きにくいし、色々と定石やらルールを覚えなけりゃならないだろう。でも一度ハマってしまうと誰でもが夢中になってしまうだろ。それと同じだよ」
里美は口を少し尖らせ、
「私は将棋や囲碁なんて、そんな高尚なものは出来ませんよ!」
と、言い放った。そんな彼女を諭す様に
「別に将棋や囲碁が出来なくても構わないが、台所仕事はどうだ。あれだって慣れるにはそれなりの苦労を要するだろう。
味噌汁一つ作るにも美味しい味を出すには、それなりの工夫が必要だろう。魚の焼き方だって同じだと思うがね。胃の中に入ってしまえば何でも同じだと言ってしまえば、それまでだがね!それでは美味しい物を食べる喜びは何処からも出て来ないだろう。生きる事に何の潤いも感じないと考えてしまうんだがね。潤いのある人生を求めるには、それなりの努力と創意は必要だよ。ただ食って、寝ているだけの毎日なんて味気ないだろう。
俺が年甲斐もなく、20近くも年の離れた里美を何とか口説き落としたいと頑張っているのも、そんな潤いを求めている事に他ならないなだろう。多くの中年男は20台の若い女を口説こうなんて誰も考えやしないよ」
そんな沼沢の話を聞いて里美は、
「あら、いよいよ本格的な口説きが始まったのかな」
と、少し戯(おど)けて見せた。
次回に続く