中沢家の人々(118)

沼沢はやゝ勝ち誇ったかの様に、
「大丈夫、俺の話す秘密に里美は絶対に興味を持つ」
と、断言した。
「先ず、この店で一番お金を落とす人に誰だい?」
「それは、沼ちゃんに決まっているわ」
「それでは次の質問に移るとね、そんなお金が一体何処から出て来ると思っている…と言う事になるのなか?あるいは何か悪い事をして儲けたお金なのかな!」
「うん、そうは思わないけど…沼ちゃんは領収書も要求しないし、何か謎の部分が多いわね」
と、里美は率直に答えた。
沼沢はいささか得意げに、
「正しく、その謎の部分が今回の秘密に繋がっているんだよ」
「ふ~ん、そう言う事なのね。かなり難しそうだわ。ちょっと待って、もしかしたら何か特別なお金儲けの仕方を思いついたとか?」
沼沢はやゝ驚いた顔をして、
「うん、かなり近い線だな…」
と、少し予防線を張り出した。
「やっぱり分からない、何かヒントをくれない!」
里美は沼沢の指に自分の指を絡ませながら色気で押し迫って来た。女の柔らかな指の感触は、それ自体が十分に誘惑的ではある。しかし、彼はその誘惑に押し切られなかった。
「ヒントは上げられないが、まあこれを言うとヒントになってしまう恐れもあるけど!…ともかく俺自身の経済活動が旺盛になって来たのは事実だ」
「そりゃ沼ちゃんのお金の使い方を見てれば分かるわよ。でも、それがどんな秘密に繋がっているのかしら。ちっともヒントになっていないじゃあないの」
「俺の仕事の事を知っているのかい?」
「えゝ、池袋で遊戯関係のお仕事をなさっていると以前にお聞きしましが、そのお仕事が大当たりしたんですか?」
「それぐらいの仕事じゃあ、今みたいに派手な遊びは出来る訳がないだろう…」
里美は少し溜め息まじりに、
「そうね、まともな仕事じゃあ『葵』みたいなお店で毎週の様に豪遊は出来ないわね、それは確かだわ…」
沼沢はニャっと笑って、
「その通りだ、月に一回ぐらいならともかく週に一回以上と云うのは普通の客では財布の中身が持たないだろう」
「じゃあ沼ちゃんは何故そんなに豪遊が出来るの?」
「それが問題のポイントだろうが…!」
「うん、分からないわね。宝くじが当たったとか?…そんな話ではないんでしょうね、きっと。やっぱり分からないわ…
お願い、意地悪しないで教えて」
里美は沼沢に両手を合わせ拝む様に頼み込んだ。彼は得意げに里美に確認をした。
「つまり降参したと云う事だね、だったらキスをしてもらおうかな。それだったら教えても構わないけど、どうする!」
里美は、いささか困り果てた顔をして、
「うん、参りましたね。でも私が納得する様な何かワクワクする様な秘密の話じゃあなければ嫌よ!」
「そりゃ、そうだろ。
でも当然、里美がワクワクする様な話だと思うがね…」
「分かったわ、それならキスしても良いわ!」
「これで里美に一歩近づいた感じだな?
ずいぶんと長い道のりだったがな…」
「まあ、大げさな言い方です事!
それよりは早く、その秘密を教えて」
次回に続く

tomikoroさんへの再回答

やはり疑いとしては「睡眠行動障害RBD」の疑いが捨て切れません。失礼ですが、脳外科でMRIの検査と云うのは見当違いだと思います。前回もご説明したと思うのですが、専門医は心療内科でもなく神経内科です。脳波の検査が必要だと思います。MRIでは「RBD」の診断は出来ないと思います。もう一つ「睡眠時無呼吸症候群SAS」の疑いも捨て切れません。これも前回にお話しをした通りです。この場合は呼吸器内科です。本当は「総合内科」の様な総合的な判断を下せる所があると良いのですが、大病院ほど専門分科されていて多くの患者さん方に無意味な時間と労力を費やさせているのが現状です。脳の事は脳外科に相談すれば良いと云うのは間違った発想です。安易に大病院に行くのではなく、ネットなどで何処の診療科が適切なのか確認すべきなのです。現在は専門医は多いのですが、総合医が極端に少ない時代です。ともかく脳波の検査は必要だと思います。睡眠リズムを知るのは脳波の検査が最重要なのですから。その際は入院ではなく、自宅で睡眠時無呼吸症候群のPSG簡易検査で血中のノルアドレナリンを測定する検査方法もあるのですが、困った事に多くの病院では取り扱っていません。と申しますのは、この機器が発売されから未だ半年も経っていないのです。ですから通常は1日入院の脳波検査となります。

9/27に、母の症状について再回答をいただいた者です。

「夜間せん妄」に加え、「睡眠行動障害RBD」の可能性もとのこと、
ご説明ありがとうございます。

その後、まずは近所の脳神経外科でMRIの検査をしてもらいました。
そこでの診断結果は、

・MRIを見る限り、脳には特に異状は見られない。
・認知症である可能性も低い
・脳の損傷が原因である可能性は低い。
他に何らかの要因があって、一時的な循環障害を起こしている可能性がある。
・脳神経外科以外であれば、心療内科に行って相談するのも有りかもしれない。
・どうしても心配であれば、大きな病院に行って脳波をとってもらうのも良いかもしれないが…
・しかし、夜間の状態を調べるのはなかなかたいへんである

このような説明を受けました。


先生が再回答くださった「睡眠行動障害RBD」の可能性を調べるには、
病院で睡眠時にテストする形になるのでしょうか?

脳外科に連れて行ったばかりのところ、
こうした検査をしに連れて行くのは、
母も抵抗するのではないかと躊躇してしまいます。


母の症状について、夜中にトイレに起きたときもそうですが、
寝入り端、眠くなってうとうとしてきたときにも
かなりもうろうとします。

そこで、睡眠中だけではなく、この寝入り端の状態にも
何かが起こっているように思うのですが、
それも「睡眠行動障害RBD」の症状にあたるのでしょうか…

MRIだけでなく、やはり脳波もとってもらったほうがよいのでしょうか。


はっきりとした原因が分からず、毎晩不安な状態が続いています。
またアドバイスいただけたらとてもありがたいです。

どうぞよろしくお願いいたします。

中沢家の人々(117)

「もしかしたら自分は、この沼沢と云う男を誤解していたのだろうか?…根はもっと心の優しい人なのかもしれない。ただ単純明解に見える人間なので彼の助平心のみに捉われていたのだろうか!」
そんな風にまで里美は考える様になっていた。確かに政治向きの話や文学の話をする訳ではないが、そんな学生ぽっい話題ばかりが男の価値でもあるまい。自分自身が「教養」と云う幻惑にただ囚われかたをしていたのかもしれないと、彼女は少しばかり反省をしていた。それは紛れもなく里美自身の学歴コンプレックスに根ざしていたのだが、彼女がその事に気付いていたかどうかは疑わしい。
季節は師走に入り、街ではすでにジングルベルが鳴り響いていた。先日の事を沼沢に謝罪され「葵」のスタッフ全員が恐縮した。その日を境に店での沼沢は、これまで以上に株を上げた。もちろん里美も間違いなく印象を良くしていた。彼女は沼沢の膝に手を乗せながら、
「沼ちゃんて、思った以上にデリケートなのね。私の気持ちも少し傾きそうよ」
と、幾らか甘えた声で里美は囁いた。沼沢は嬉しそうな顔になって、
「どんな風に傾いたのだ、俺と良い仲になっても構わないって云う意味か?」
と言って、里美の手を握って来た。
彼女はそのまま手を握らせておいて
「どれだけ良い仲になれるかは、沼ちゃんの口説き方しだいでしょう」
と、悪戯(いたずら)ぽっい目で沼沢を見つめた。
「そうか、俺はこれでも一生懸命に里美を口説いているつもりだがな!…他にどんな手があるんだ?」
「馬鹿ね、そんな事を女の私から言わせてどうするの!いまの発言は減点1じゃあない」
「それは厳しいな…これまでにもプレゼントだって色々と考えたしな…
やっぱり俺には女心が分からないのかな!」
里美は沼沢を宥める様に、
「そんな事はないわよ、後一歩って云う所かな」
と、まるでラブ・ゲームを楽しむかの様に言った。
「後一歩か、それじゃあ俺の取って置きの秘密を出すか!」
里美は誘われる様に、
「その、秘密ってな~に?」
と聞いて来た。沼沢は少し弄(いじ)らすかの様な調子で、
「さあ、どうするかな。ただ教えても面白くはないし…何か里美からの褒美が欲しいな!」
里美は少し考えて、
「分かった、素晴らしい秘密だったら、頬っぺにチュをして上げる」
「子供じゃあないんだ、頬っぺにチュぐらいじゃあ教えられないな」
と、沼沢も巧みにやり返して来た。
「うん、今日の沼沢くんは手強いな!…じゃあどんな条件なら納得するの?」
里美は戯(おど)けてわざと「くん」づけをして尋ねた。
「そうだな、今日の所は唇へのキスぐらいで妥協するか」
と言って、沼沢はニヤリと笑った。
「キスか、ちょっと悩むわね」
そう言って、里美はしばらく考えていたが、そこまで言う沼沢の秘密に限りない興味を覚えた。
「分かったわ、キスの条件を飲むわ。でも私に取って興味のない秘密なら嫌よ」
と、彼女なりの予防線は張った。
次回に続く

中沢家の人々(116)

里美はにこやかな笑みを返しながら
「任せて、沼ちゃんのお友達だもの精一杯のサービスをさせて頂くわ」
今にも灯りを消そうかと意気消沈していた店の中は一気に活気を取り戻した。
その日に限って言えば、沼沢の来店は「福の神」そのものの出現と同じだ。
上品ばかりを言っている様な状況ではない。それよりは少しでも景気良く店の中を明るくしてくれた方が、どれだけ助かる事か!
50才間近の中年男たちが高校時代に戻った気分で軍歌を歌ったり、古い流行歌を声高らかに歌ったりするもんだから、その賑やか事と言ったらない。また勝手気儘な注文も飛び交い店の中は蜂が突く様な騒ぎになっていた。ウィスキーやらワインはともかく日本酒まで注文する人間がいたりで、わずか6人の客にボーイ達は大忙しだった。客の一人が、
「沼沢、寿司を注文しても良いかな?…何か腹が空いたんだが!」
すると他の友人と思える客が、
「そんな寿司なんか注文出来るのか、ここはナイトクラブだろうに」
と言った、素朴な疑問を投げかけた。ボーイの一人がにこやかに、
「お客様のご要望であれば大丈夫です」と、答えた。
すると幾人かが、
「寿司か、それは良いな!」
と、拍手をしだした。里美が沼沢の目を見て
「どう、なさいます?」
と、少し当惑した様な面持ちで尋ねた。如何に友人かは知らないが何か図々しいのではないか、そんな里美の視線が逆に沼沢を刺激したのかの様に彼は…
「寿司か、それも良いな。まぁ、特上を10人分ぐらい頼んで貰おうか」
と、事も無げに答えた。その気前の良さに、さすがの里美も呆れる思いがした。それからも沼沢の友人達は酔った勢いもあってか、たかるに任せ好き放題に振舞っていた。
そんな沼沢の人の良さを目の当たりにして、里美はこれまで抱いていた好色漢だけのイメージから、素朴な虚栄心と底抜けに明るい好人物の印象を深めていた。妙に同情すべき人間像さえ思い浮かべていたかもしれない。
ある意味で里美の目線は嫌悪感から好奇心に変わって来たとも言える。
何にしても、この日の客の騒ぎ方は派手だった。3時間以上は騒いで最後は舟木一夫の「高校3年生」を大合唱して、やっとお開きとなった。
店の雰囲気は何時もに比べ、かなり庶民的な味わいとなってしまったが、ボーイやホステス達も今夜に限って言えば好意的でさえあった。
夜10時前までの葬式みたいな静けさからみれば、50才前の老けた高校生の集団の方がお店として良かったに違いない。何にしても、この1日で沼沢は200万円以上のお金を落としていったのだ。店の誰も少しぐらいの喧騒には文句が言える訳もない。
それから6日目の木曜日にまた沼沢がやって来た。アルコールは飲んでいなかった。少し恥ずかしそうな顔をして、
「この間は大騒ぎをして悪かったな!」と、
席に着くなり里美に詫びた。それだけでは気持ちが済まないのか、店のスタッフ全員に1万円札が入った祝儀袋を配り歩いていた。そんな沼沢の態度を見て里美の気持ちを大きく揺れ動いた。彼への好意が大きく膨らみ始めたのだ。
次回に続く