診察室からコンニチハ(174)

ディープラーニングの技術は、人間の神経細胞(ニューロン)の仕組みを模したシステムであるニューラルネットワーク(人間の脳内にある神経細胞「ニューロン」とそのつながり、つまり、神経回路網を人工ニューロンという数式的なモデルで表現したもの)がベースになっています。ニューラルネットワークを多層にして用いることで、データに含まれる特徴を段階的により深く学習することが可能になります。多層構造のニューラルネットワークに大量の画像、テキスト、音声データなどを入力することで、コンピュータのモデルはデータに含まれる特徴を各層で自動的に学習していきます。この構造と学習の手法がディープラーニング特有であり、これによりディープラーニングのモデルは極めて高い精度を誇り、時には人間の認識精度を超えることもあります。
事実、プロ棋士との対戦でAIの勝率が圧倒的に高くなっている話は、昨今はよく耳にするニュースです。
また、人工知能の技術進化が大きくなると、臨床医の能力がいつ人工知能に並ばれるのか、危機感を持って見守っている医師も多いと思います。興味深い2015 年の論文では、『いつ人工知能は人間を凌駕するのか?』(When Will AI Exceed Human Performance? Evidence from AI Expert.)があります。
さらに、Oxford 未来研究所/Yale 政治学部の人工知能研究者352名に、「機械が人間の手を借りずに全業務を人間労働者よりもうまく安価に行える(High-level machine intelligence: HLMI)」ようになる時期についてアンケート調査を行ったものがあります。HLMI 到来まで9年以内と答えた研究者が10%、45年以内は50%でした。
これによりますと、人間を超える人工知能の到来時期は、外科医で2053年、ベストセラー作家2049年、販売員は2031年、トラック運転手は2027年、高校生レベルのエッセイスト(卓越した文章能力者)は2026年、そして翻訳家は2024年でした。
人類の知能を人工知能が凌駕する、技術的特異点(シンギュラリティ)が到来する、という説が存在しています。これは、米国の発明家・未来学者であるレイ・カーツワイル博士(現 Google 社)により初めて提唱されました。コンピュータの集積回路の細密化度が指数関数的に増加するムーアの法則に基づき、人工知能の進化・技術革新も加速するという収穫加速の法則に基づいています。カーツワイル博士は当初、技術的特異点到来の予測を 2045 年としていたものの、近年の講演では 2029 年に前倒しています。カーツワイル博士の1990 年代以降の146件の未来予測は 86%の的中率であり、前倒し予測が正しい可能性は高いのです。ひとたび技術的特異点に達し臨界点を突破すると、人工知能の進歩を予測することは困難となります。技術点特異点後の、人工知能が人類にもたらす脅威に対し、ビル・ゲイツ 氏、イーロン・マスク氏などの IT 企業者やホーキング博士などの科学者が強い警鐘を鳴らしており、現在は盛んに議論が行われています。特に人工知能技術の悪用 (dual use) が懸念されています。
考えられる例としては、ミサイルに変化するドローン(無人機)、世論を操る偽物のビデオ、自動化されたハッキング。これらは、悪の手に渡った人工知能(AI)がもたらす脅威の一部に過ぎません。第一線のAI専門家26人が、警告を発表しています。
人工知能での、医学的な活用について考察してみましょう。医療現場では、患者のカルテ、MRIや CT画像、病理画像、DNA の配列などの形で大量のデータ蓄積が容易になります。また、それらの中から必要な情報を取り出す方法として、人工知能は極めて有効でしょう。さらに、画像診断、カルテ解析、生化学的診断、遺伝子解析、行動解析、創薬、そして遠隔医療なども医療に革新的な進歩を促すでしょう。また、心臓疾患にかかわる問題としては、身体運動との関係、遺伝子情報の活用が発展するでしょう。
歩行などの運動は、内臓疾患を反映するといわれていますので、歩行を画像で撮り、それを解析することで心臓疾患の可能性が示されることになれば、多数の予備軍から治療の必要な人を選別し、注意を与えるなどの役割が期待できま
す。在宅で用いるならば、診断(医療)ではなく、患者に医療機関へ行くことを勧める、という役割が期 待できます。手遅れにならないならば、本人の予後には大きな福音となり、医療費削減に対しても有効な方法となるでしょう。 
次回に続く

診察室からコンニチハ(173)

最先端医療を担う上で、ゲノム編集に並ぶ大きな柱として、AI (Artificial Intelligence : 人工知能)についても説明が必要でしょう。
一口にAIといっても、マシーンラーニング(機械学習)とディープラーニング(深層学習)に大別されますが、基本構造は同じです。
1)機械学習(マーシンラーニング)とは、特定のタスク(仕事)をトレーニングにより機械に実行させるものです。
・その要点は、事象(コト・モノ)の「特徴」をつかみ、みずから「法則化」することです。
・機械学習は、データから反復学習をし、学習結果を法則化(法則化をモデル化とも呼びます)させる事です。法則化とは、この反復学習からある事象の「特徴」をつかむのが最大のポイントです。
・丸暗記的に全部覚える、というものではなく、沢山のデータからある事象の傾向・クセといった「特徴」を捉えに行くという点が重要です。うまく事象の特徴を捉えられると、それを次回以降にも利用できる「法則」に昇華させることが出来るのです。
・そして、事象の特徴をつかんで法則化できた状態を「自動化」し、以降の再現性を作るのがAIの重要な側面です。学習する機械(マシーン)であることからもわかるように、機械学習はシステムそのものです。
・ただしシステムといっても、ルールベースの条件文を数万行と記述していくようなシステムではなく、法則を自動化する部分において、ノンプログラミングでシステム化を行うものです。もちろん機械学習を動かす上で、様々なプログラムは必要となりますが、「特徴から生まれた法則性を自動化する」というコア部分は、ルールベースのプログラミングで構成されるものではなく、AIが独自に捉えて行くという意味です。つまり、独自に考えて学習する機械なのです。
2)深層学習(ディープラーニング)とは、機械学習をさらに進化させたものです。
人間が、自然に行うタスクをコンピュータに学習させる手法のひとつです。この進化モデルにより様々な分野への実用化が進んでいます。近年開発の進んでいる自動運転車においてもカギとなっているのは、ディープラーニングです。停止標識を認識したり、電柱と人間を区別したりするのも、ディープラーニングが可能にしている技術と言えます。また、電話、タブレット、テレビ、ハンズフリースピーカーなどの音声認識にも重要な役割を果たしています。近年ディープラーニングが注目を集めているのには理由があります。それはディープラーニングが、従来の技術では不可能だったレベルのパフォーマンスを達成できるようになってきているからです。
次回に続く

診察室からコンニチハ(172)

次に、代表的な染色体疾患の幾つかを紹介しておきます。
1)性染色体異常
(1)色覚異常: X染色体の劣性遺伝で受け継がれます。発端者の母親は変異の保因者(正常のXXではなく、x Xと表されます)として、妊娠ごとに変異を伝える可能性は50%です。xYの男性に遺伝していきますので、色覚異常の多くは男性にみられます。
(2)血友病: AとBがあり、Aは、血液凝固因子の8番目(第Ⅷ因子)の遺伝子異常で、もうひとつのBは、9番目(第Ⅸ因子)の遺伝子の異常による血友病Bです。
原因である遺伝子は、性染色体のX染色体の中にあり、男性ではXYの性染色体を持っているのですが、この男性のX染色体が欠如している場合に発症(伴性劣性遺伝)するのが、血友病です。
  (3)ターナー症候群 : この疾患は、母体のなかで受精卵として発生をしていく段階で、染色体の分裂や合成に異常が生じることで起こります。
具体的には、女性の細胞には本来2本備わっているはずのX染色体の1本が完全に、または一部が欠けてしまうことが原因です。
しかし、なぜ異常が生じるのか、詳しい原因についてはまだ解明されていない部分が多い病気です。
ターナー症候群の特徴としては、低身長で肥満体型であることが多く、首の皮膚が伸びて首に翼があるように見える(翼状頚)や肘が外反する(外反肘)さらに、女性性器の発育不全と月経異常などの性腺機能不全などが挙げられます。
(4)クラインフェルター症候群 :性染色体異常が原因の病気の一種で、男性であれば性別を決定するための染色体は「XY」の組み合わせです。しかし、クラインフェルター症候群ではこの組み合わせに異常が生じ、「XXY」を有することで病気が引き起こされる割合が多くみられます。つまり、正常の染色体よりX染色体が1本だけ多いのです。この性染色体を持つ男性は、高身長・やせ型・長い手足という見た目をしている方が多いといわれています。幼い頃に病院で診断される場合もありますが、気付かれず成長した場合は、男性不妊症を契機に発見されることも多い病気です。
約1,000人に1人の割合で発生すると考えられており、日本においては6万人以上の方が罹患しているという報告があります。
2)常染色体異常
代表例としては、ダウン症候群が挙げられます。常染色体21番目の過剰(分離した1本の染色体または別の染色体への転座のいずれ)が、原因とみられています。
症状としては、全身各種臓器にみられ、成長面や発達面にも及びます。共通する特徴として、全体的に平坦な顔貌、厚い唇、大きな舌、つり上がった眼等があります。成長発達面の症状として、筋力や言語発達の遅れがみられます。また、言葉も不明瞭で、語尾だけを声にだしたり、抑揚のない話し方をしたりする場合もあります。高齢出産での出産率が上がるのも、この病気の特徴です。
ところで、これら染色体異常の疾患は、ゲノム編集の進歩の中で予防と対策が着実に講じられていくのでしょうか。もしかすると、編集ミスによる予想外の生命体を産み出してしまう危険性も多いのではないかと思われます。それにより、考えられない混乱が発生する覚悟が必要かもしれません。これまでの医学の過程を振り返っても、どれだけ貴重な生命が失われているか?
例えば、抗がん剤治療の歴史の中でも、薬による副作用でかなりの人たちが、その生命を落とした事かを顧みれば、ゲノム編集の過程でも同じような試行錯誤は繰返されると考えるべきでしょう。
それは、新しい科学や医学の進歩過程で、避けて通れない道なのかもしれません。

レビー小体型認知症の父の娘さんへの回答(再)

まずは外傷性硬膜下血腫でなくて、良かったです。しかし、本当に腰痛圧迫骨折なのでしょうか?
80歳以上の男性高齢者では、前立腺癌の発生頻度が極めて高く、前立腺癌の骨転移を半年ぐらい前に経験しました。実は私は高齢医学の全てに強い興味を持っていて、認知症はもちろん、整形外科(整形内科:手術をしないで、神経ブロックとか、変形性膝関節症、肩関節痛などの保存的な治療)、さらに皮膚科領域の治療もやっています。何故その様に幅広い分野に手をだすかと言えば、詳細を語りますと、幾ら時間があっても足りないので省略しますが、基本的には大学の恩師が「歩く医学辞書」みたいな偉大な医師でしたので、その下で10年近く学んだ私も、その様な習性が身に付いてしまった様です。小児科は自分の子育ての時代に身を付けましたし、それ以外にも好奇心を持ち過ぎるのが私の欠点です。ともかく、腰痛圧迫骨折であろうと、前立腺癌からの骨転移であろうとも痛ければ、大騒ぎするのは認知症患者さんだけではありません。
それがどの様な原因で来ているのか、どの様にすれば疼痛緩和が出来るのかを考えるのが医師の役目ですが、自分は脳外科だから、整形外科に行って欲しいという安易な発言には、腹立たしさを感じます。昨今では、ほとんどの医師がそうですが。お父さまの様な方をどうやって整形外科に連れて行くのか、その脳外科の医師は考えているのでしょうか?
実際に、疼痛緩和と精神ケアの方法はあるのですが、それが出来る医師は皆無に近いのかもしれません。遠隔治療の方法があれば、直ぐにでも緩和のお手伝いが出来るのですが、現実には歯ぎしりするばかりで申し訳ございません。
【ご質問】
成川先生、改めまして、
覚えてくださっていたことに、
深く感謝申し上げます。
とても嬉しいです。
本当にありがとうございます。
先ほど、早速、脳神経外科で診てもらってきました。
萎縮はかなり進んでいるようですが、
特に心配はないとの診断でした。
腰を圧迫骨折をしているのではないか、、
整形外科で診てもらった方が良い…と言われたのですが、
連れていくのが大変すぎて、
"自然に治る"ともおっしゃっていたので、
家で様子をみる事にしました。
本日の受診時も大暴れで(家では、ほとんど意識がない状態だったのですが…)
介護タクシーの方が迎えに来られた時から
意識が一気に戻ったかのように、
手足をバタバタして怒りだしたんです。
無理やりタクシーに乗せてもらい、
何とか連れていきました。
検査室からも発狂する声が聞こえるほどで…
久しぶりに暴れる姿を見ました…
何でも"認知症"で片付けたらダメですね。
脳神経外科の先生からも、
『これから何かあったらすぐに受診するように』と言われました…
先生からご指摘を頂けて本当に良かったです。
助かりました。
お忙しい中、いつも丁寧にお返事を下さり本当にありがとうございます。
感謝致します。

診察室からコンニチハ(171)

話をゲノム編集に戻します。
まず、ゲノムとは何かを整理してみましょう。
ゲノムの定義は、「遺伝情報の全体・総体」を意味するドイツ語由来の語いであります。古典的遺伝学の立場からは、二倍体生物におけるゲノムは生殖細胞に含まれる染色体もしくは遺伝子全体を指します。
もう少し分かりやすく言えば、人間の染色体は46本あります。この中の2本が性染色体と言われ、XX(X染色体が2本)が女性の性染色体で、XY(X染色体とY染色体が1本ずつ)が男性の性染色体です。性染色体を除いた44本が常染色体と言われ、人間の体細胞を形成しています。人間の精子には23本の染色体があり、卵子にも同様に23本の染色体があります。受精により、精子と卵子が結合して46本の染色体となるわけです。
ですから、人間は二倍体生物に属するのです。この精子か卵子の23本の染色体の総数をゲノムと言います。つまり、人間には二つのゲノムが存在しているのです。
それでは、遺伝子とは何でしょうか。
1本の染色体は1冊の本にたとえることができます。ということは、一つのゲノムには23冊の本があるという事になります。その1冊づつに書かれた文字が遺伝子なのです。
具体的には、人間の第一番目の染色体は2610の遺伝子でなり立っています。つまり、2610の文字で一冊目の本が出来上がっている事になります。ちなみに、二冊目の染色体には1748の遺伝子が、三冊目には1381の遺伝子があります。私たちが日ごろ手にしている本の中に、時々は誤字、脱字が見つかる事があります。二倍体生物にとっては、これが遺伝子異常となって疾患につながってしまうのです。遺伝子の編集と言われていますのは、これらの誤字、脱字を直すことなのです。あるいは、もっと美しい字を書いたり、分かりやすい文章構成をしたりする事で、農産物の品種改良に繋がって行くように、ヒトの遺伝子も操作して、疾患の治療に結びつけたり、糖尿病や高血圧などの遺伝子検索をして、その体質の遺伝子を書き換えることも将来的には可能となるのでしょう。こう書いていきますと、私たち人類は近い将来、全ての疾患から解放されるのではないかと大きな期待感で、胸を膨らませて行くかもしれません。
次回に続く

レビー小体型認知症の父の娘さんへの回答

確か昨年の10月以来のご質問かと、思いますが、その後はどのようにお過ごしかと気になっていました。
3週間程前に階段から落ちたとの事ですが、最も疑わしいのは、「外傷性硬膜下血腫」です。何でも「認知症」で考えて行くのは間違いのもとです。階段から落ちた数日間は見るべき骨折もなく、普通に歩いていたのに徐々に歩けなくなって来たのは、おそらく頭部打撲による血腫が徐々に広がって来たのではないかと拝察します。至急に病院に行って、頭部CTを取るべきでしょう。
レビー小体型認知症だけで、急激に歩行障害が来るというのは考えにくいです。
外傷性硬膜下血腫であれば、脳外科で診てもらうべきですが、ベテランの神経内科医ならば、内服薬だけでも治療する手段は持っています。
私自身、外来で外傷性硬膜下血腫の治療を内服薬だけで治療した経験は幾度もあります。
しかし、脳外科で手術が可能ならば、そちらを優先すべきです。脳外科領域では、盲腸の手術ぐらいの簡単な手術ですから。何日間の入院は必要のなりますが。
ともかく至急に脳外科か神経内科医に診てもらう事をお勧めします。
【ご質問】
成川先生、ご無沙汰しております。
以前、何度かお世話になりました。
今回も、ご多忙かと思いますが、アドバイスを頂ければ、と思い投稿させて頂きました。
先生から頂いたアドバイスを元に、父の在宅介護を続けております。
レビー小体型認知症と診断され、
4年が経ちます。
唐突な質問なのですが、
認知症で歩き方を忘れる、ということはあるのでしょうか?
3週間程前に階段から落ちました。
病院には行っていません。
落ちた当日は何とか起き上がり、
ベッドまで歩き、そのまま2日間ほど、
ベッドで寝たきりでした。
3日めに、自分でベッドから起き上がり、ソファーまで歩いたので、大丈夫かと思っていました。
しかし、歩いたのはその時だけで、
次の日からはベッドから起き上がる事もなく、上半身を起こすこともなく、寝たきりです。
起きるよう、声を掛けても
『よう分からんから』と言い、
全く動きません。
身体を起こそうとしても、嫌がります。
階段から落ちる前は、
1日中、家の中を歩いていました。
食事も摂らず、ずっと歩いている日もありました。
もしかしたら、あんなに歩いていたのに、
『身体を起こして歩く』という事を忘れたのかも…と不安になってきました。
このような事が突然起こる事はあるのでしょうか?

診察室からコンニチハ(170)

【後期高齢者の運転免許】(3)
専門医なら、認知症の深い臨床経験と診断能力で容易に書けるかというと、そうではないと思います。確かに長谷川スケールが30点満点中の20点以下だからとか、画像上で側頭葉の海馬萎縮が著明であったとかの理屈づけは出来るかもしれません。それ以外の知能検査も幾つかありますので、それらを丹念に実施して患者さんとご家族に納得してもらうというのが、一般的な考え方でしょう。
でも、それだけでは何か本質的な見落としがある様な気がしてなりません。昨今は高齢者の運転事故が相次いでいるので、それが認知症という病名に結びついたのでしょう。
でも、何か少し安易な発想に思えてならないのは、私だけでしょうか。何か大きな社会問題化する事故が多発すると、「認知症」であるとか、「睡眠時無呼吸症候群」が原因であるとか、マスメディアを通じて単純な発想が常に一人歩きしてはいないでしょうか?
もちろん、「認知症」や「睡眠時無呼吸症候群」が、交通事故を誘発しやすいのは事実でしょう。
それを否定するつもりはありません。しかし、問題の本質は「運転の適応性」があるのかを問うべきでしょう。医学的に「認知症」とは判断できなくても、適応性のない人は幾らでもいるのです。
例えば、「煽り運転」で事故を繰り返す人と、「認知症」の高齢者と、どちらが「運転の適応性」に欠けているかは簡単に結論づけられないと思うのです。
安易に高齢者だからと言って、「認知症」という概念で括りつける事に疑問を呈したいのです。
確かに高齢になると、瞬発力や身体機能が低下するのは自然のなりゆきでしょう。だからと言って、「認知症」という概念だけで、運転免許証の返納を論議すべきではないと思うのです。
基本的には、繰り返しますが「運転の適応性」に注意を払うべきなのです。「認知症」がなくても、運転すべきで無い人は幾らでもいます。何度も交通事故を起こす人は、若くても「運転の適応性」に欠けているので免許証は返納すべきでしょう。
「それでは、高齢者の運転免許証はどうするのだ?」
話の結論が全くわからないとの、ご叱責を受けることになるでしょう。高齢者の運転能力が低下しやすいという傾向は考慮しても、ただ認知症というだけでなく、それも視野に入れながら、一人の人格として人間性を重んじながら「免許証の返納」を、ご本人、家族を踏まえて相談すべきだと思うのです。医師が安易に診断書を作成するのではなく、あくまでも自主的にご本人と家族が返納するか否かの意思決定を行うのが最良かと思います。
それらの判断材料として、認知機能の診断がなされるべきだと思います。ただ私の考える簡単な判断材料として、多くの方に参考にして頂きたいのは、「車庫入れ」です。
年々「車庫入れ」時にハンドルの切り返しが多くなっているとか、接触事故の回数が頻回である事は、「免許証返納」の大きな基準になると思います。
次回に続く

診察室からコンニチハ(169)

【後期高齢者の運転免許】(2)
つまり本人が一人で来ても、家族と来ても、認知症診断にとって要(かなめ)と言っていい「生活の困りごとを包み隠さず話してもらう」ということは、期待できないことがよくあるのです。唯一の例外は、「お願いだから、危ないからもう運転しないで...。」と家族が切に 願っている時で、この時は、かつてあった色々なエピソードを伝えてくれるのでスムーズです。
逆恨みされやすい。
時に書類を発行した患者さんから後に「免許ダメになっちゃったよ。先生、悪く書いただろう!」とすごまれたり、逆恨みをされることは、実は珍しいことではありません。
はっきりと認知症の診断を受け、数年前から認知症の薬を飲んでいる方でさえ、免許を取り上げられることに納得ができず、頻繁に医院を訪れては恨みつらみを言う方がいるのです。事故を起こしてしまった際の責任の重さなどの正論を懇々と説くのですが、理解力が低下することが認知症の症状の一つであるため、糠に釘という心境てす。その場では渋々納得され たように見えても、数日後に忘れてもう一度来院...電話が何度もかかってくる...ということが起きており、医療機関としても対応にかなりエネルギーを費やすこととなっています。
どちらとも言えない...というあいまいな項目に丸をつけると、その時点では一応免許は 更新されますが、なんと半年後に再び同じ書類が来て、患者さんとお会いすることに。問題 の先送りに過ぎないのです。
免許更新のための認知症診断は、上に書いたような事情でいたって不完全で心もとないのが実情。医師は、限られた情報しかない中で、頭を悩ませながら書類を作成します。本人から車という貴重な交通手段を取り上げてしまうことの心苦しさ。判断力が落ちている方が人身事故を起こした時には取り返しがつかないという恐れ。不十分な情報の中でどちらか一方を選ばなければいけないということは、書類作成をする医師にとってかなりストレスフルな作業です。これを初めて会う医師に丸投げすることは、システムとしては問題です。
そういった意味から考え合わせると、一般内科医は【後期高齢者の運転免許】の診断書には、かかわるべきでは無いと思います。すなおに専門医に紹介状を書くべきでしょう。
では、認知症専門医ならどうするかは、次回のブログで書いていきます。
次回に続く