診察室からコンニチハ(178)

今回は日本人の医療満足度について考えてみたいと思います。
わたしたち日本人の医療満足度は15%であると言われています。世界の先進22ヵ国中では最下位です。ちなみにトップは、スウェーデンの75%ですが、しかし日本の医療水準は世界一なのです。医療水準はスウェーデンをはるかに超えています。このあまりのギャップは、どこから生じるのでしょうか?
まず日本の医療水準が世界一であるという根拠から説明します。
色々な角度から医療水準のチェックポイントがあるのですが、今回は「ガン」の生存率からみて行きたいと思います。
大腸がんの5年生存率(2004~09年)を調べたものでは、日本は68%と1位、アメリカ5位(64.5%)、カナダ6位(63.4%)、ドイツ13位(60.4%)イギリス18(53.3%)で、先進加盟国の平均は59.9%です。
世界67ヵ国、2500万人以上の「ガン」患者の5年生存率を調査した国際共同研究「CONCORD-2」(1995~2009年)によると、日本は肺がんで5年生存率30.1%とトップです。
アメリカ18.7%、イギリス9.6%なので、日本の成績はかなり際立っています。
肝ガンでも日本の成績は27.0%と、断トツの1位です。
アメリカは15.2%で、欧州各国も20%に達していません。
胃ガンでは、韓国が57.9%と1位ですが、日本は54.0%です。欧米は30%前後と軒並み低いのです。
再びOECDの調査に戻って、
乳ガンの5年生存率を見ると、日本はアメリカに次いで2位の87.3%、
子宮頸ガン4位の70.2%と、先進加盟国で上位にあります。
医師受診の回数も日本は突出して多いのです。OECDの統計によると、国民1人あたりの医師にかかる回数は加盟国の平均が6.6回。これに対して日本は12.9回となっています。意外にも低いのが、スウェーデンであり、年間2.9回。このスウェーデンの約3回に対して、日本は約13回という、この数字の開きは、つまり「医師との距離」の違いでもあります。
次回に続く

診察室からコンニチハ(177)

最先端の科学と医療に接して、私たちの未来は幸福であるか否かを私は常に自問自答していました。個人的な結論としては、すべては人類の叡智にかかっていると思います。その宗教観、民族主義、権威主義、人種偏見、市場経済という妄想、さらに利権的な排他主義。
あまりにも多くの価値観と、偏見に私たちは晒(さら)されています。
過去もそうであったように、未来も時代のもつ価値観は、多くの変遷を経ながらも私たちの幸福を奪うかもしれません。最先端の科学と医療が、地球上の全ての人たちに恩恵を与えるかというと、大きな疑問が残ります。現実の地球上でも、食料、医療、環境その他で、あまりに格差が見られます。
国別の平均寿命を比べても、実に大きな違いがあります。
世界一の長寿国は、我が国の84.2歳(2018年)ですが、アフリカ大陸には50歳に満たない平均寿命の国が多数あります。医療水準も日本がトップレベルです。そんな我が国では考えられない、感染症や栄養不良で、若い命が犠牲になっている地域は無数にあります。GDP(国民総生産)が世界一のアメリカ社会では、市場経済という化けものが跋扈(ばっこ)して、貧富の格差がどんどん広がっています。医療水準ではなく、医学水準は世界一のアメリカですが、その恩恵に預かっているのは人口3億3千万人の2/3ぐらいの人達と言われています。また世界の一部の地域では、中世的な独裁政治が続いている場所さえあるのです。
このように地域格差が著しい世界の現状で、ゲノム編集やAIの変革が、どのように利用をされてしまうのでしょうか?
政治的利用、利権的利用、宗教的利用、ある特殊な階層が自己の繁栄目的だけで、最先端の科学を悪用する危険性は限りなく広がっています。結局、世界の平和が何とか維持できるのは、パワーバランスしかないのでしょうか?
世界平和を願って、「国際連盟」から「国際連合」と名を変えて人類全体の幸福を祈り続けていますが、そんな祈りはまるで実現しそうにありません。より巨大な武器(核ミサイルのように)は、より巨大な殺人兵器となります。弓や剣の戦いでは、局地的な争いですみます。しかし、核ミサイルの使用では、局地的な戦争ではすみません。同じように最先端の科学技術も悪用されると、私たち人類に限りない不幸を招き寄せる結果となるかもしれません。
結局は人類の叡智に、すべてはかかっているとしか言いようがないのです。
科学技術の発達が私たち全てに、幸福な未来を与えてくれる事を切に願って、私の拙い「医学史観」を終章にしたい思います。
次回に続く。

診察室からコンニチハ(176)

2003年のNEJM(New England Journal of Medicine)に掲載された米国のカルテの分析によりますと、医療の質の評価で、正しい臨床を行ったというカルテ記載は全体の50~80%のみに留まる[NEJM:2003;348:2635-2645 June]と、されていました。また、別の2016年の論文ではこのような医療の質の問題が米国の3番目の死亡原因とされ、約1割の死亡がそれに基づくとも説明され[Makary MA, Daniel M. Medical error-the third leading cause of death in the US. BMJ. 2016 May 3;353:i2139]て、いました。
以上のように、医師の代わりに確定診断をすることは不可能であるが、分かりにくい医療を分かりやすくするために「人工知能」は、役立つとの見解も多いのです。
その典型的な例として、Clinical Decision Support (臨床判断サポート)があります。新しい Clinical Decision Support は、古典的な紙?の教科書と異なり、自動的に患者情報を取り込み、複雑な計算をすることで、電子的なデジタルコンテンツを 適切に表示をすることで診療を支援するシステムです。
現在容易に想定される AI のユースケースとして、下記の 6つがあります。そのどれもがすでにある程度は「人力」で行われているものですが、今後は自動で低コストで行われる時代になるでしょう。
1:薬剤相互作用の検索
2:検査の必要性の評価 
3:入院期間の予想
4:手技の合併症の予想 
5:死亡率の予想
6:診断支援
などが上げられます。
AI のリスクとしては、下記のような事が想定されます。
1:過度の信頼
カーナビなどで、日常的に私たちは経験していますが、過度の信頼は遠回りになってしまう危険があります。
2:二つの異なる推奨
こちらのAIは、(A)という薬を、別のAIは、(B)という薬を推奨してしまう事例です。現実には高血圧などでも、医師により薬の使い方は異なりますから、AIでも薬や検査の指示は異なることが考えられます。
3:プライバシーのリスク
個人情報の漏洩も皆無でないでしょう。
4:プロフェッショナリズムの変化
医療の一部が代替えされ、医師の本質に変化の起きる場合もありえます。
以上のようなリスクを考慮しても、医療の一部分が自動化することにより、正確な医療を行うことができるようになると考えられます。医療の国民の人生に与える影響がより良くなる事は確実でしょう。
少なくても、米国と日本の最新のデータ(2017~2018年)を見る限り、AIの部分的な利用により誤診率を低下させている事実は、幾多の論文報告で検証されています。
ただし、現時点では臨床医の少数がAIを補助的(電子カルテなど)に使用しているに過ぎません。医療分野全体での本格的なAI普及率は、まだ低く、AIのみで医療が完全に成り立つかというと大きな疑問が残ります。それでも、将来的には大きな期待が抱けそうです。AIと医師の共同作業というのが現実の話となるのではないでしょうか。
次回に続く

診察室からコンニチハ(175)

しかし、最も危惧される問題として、人工知能の活用上データの集積が最も重要となるのが、高速に大量に産生される生データを入手し、翻訳・解釈を実施することです。それらのデファクトスタンダ ード(近年の技術革新による世界基準、GoogleやWindowsOSのようなもの)を握った企業・団体が、すべての市場を占有する危険性が存在します。今後 、IT 企業による医療・ 健康分野への参入、人工知能による融合が益々進んだ場合、医療・健康分野は 、IT 企業に席捲される可能性があります。医療の専門家が存在しなくても、 情報工学の専門家だけでデータの翻訳・解釈が可能となるためです。限りなく医療健康サービスの費用は、低減化される可能性がある一方、患者・利用者側の観点からは、利用者が進んでみずからの医療健康データの提供を行うことで、 データから得られるサービスを無料で、あるいは非常に安く享受できる可能性があります。これは既存の IT サービス利用と同様で、米国 IT 企業が日本および世界の IT 市場を支配してしまったように、医療の人工知能利活用においても米中の IT 企業が日本市場を寡占化してしまうことが懸念されます。医療健康情報は、一度電子化されると容易に転送可能で、国境は存在しません。この構造的な枠組みの問題は、国際的な動向を踏まえ、国策としての対応が急務となるかもしれません。
総務省の調査によると、AI の利活用が望ましい分野として、高度な診断、自動運転、救急車等の緊急車両の配備などが上位に挙がっており、市民の AI の医療応用の期待値は非常に高いと報告されています。また、日経メディカルの調査では、医師も、もし AI によって診断が補助される時代が来た場合は 3/4 以上の医師がそれを用いたいと返答しています。同時に確定診断の責務を AI に負わせることはできないという現実的な意見も出ています。
上記の期待や予想に反して、現状の人工知能の延長では確定診断を行うことはできないとする意見も根強いものがあります。
その理由として、医学特有の事情があります。それは、①人間の持つ情報量が多すぎること、②正解診断が確実に明確でないこと、③膨大な知識が医学の履行には必要なこと、④多くの意思決定を基に初めて治療方針が決まること。この 四つは、医学の本質でもあり解決が現実的には不可能と思われます。
次回に続く