潮騒は聞こえず(14)

徳治の嘲笑った様な顔を見て闇屋の親父は不快そうな表情を露骨に現した。「徳さんが嫌なら別に無理にとは言わないよ。こんな凄い情報は何処の誰だって直ぐに飛びついて来るよ。他に持って行くだけの話だ」と、嘘ぶいていた。徳治の心に少し迷いが生じた。「で、どんな情報なんだ」と、つい誘い込まれる様に尋ねた。闇屋の親父は先刻のずる賢い目つきに戻り「そりゃ徳さんすぐには言えないよ。現金を目の前に積んでもらえなきゃね」と、得意気に鼻をふくらませた。もしかすると、こいつの話も全くの与太話ではないかもしれないと徳治の迷いは更に大きくなって来た。「しかし1万円は余りに高いだろう。せめて5千円ぐらいでどうにかならないのかね」と、やや根負けした感じで相手の出方を見た。「そりゃ無理な注文だ。1万円でも安いくらいの情報なんだ。徳さんだからこそ1万円でも良いかと思って持って来た話だ。もう良いよ、この話は忘れてくれ」とまで言われ、徳治は完全に相手の意のままに成らざるを得なくなってしまった。「分かった、もう四の五のは言わない。1万円は用意する。しかし1万円は大金だ。2、3日待ってくれないか」と、もう相手の言うがままだ。「良いよ、徳さんとの仲だ、3、4日は待っても」と、親父は勝ち誇ったかの様に鷹揚に頷いた。
明日に続く
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