潮騒は聞こえず(14)追加

昭和21年4月末に徳治は100円札を50枚づつを2束にして、指定された上野の小料理屋に向かった。2階に個室が一つだけあって1階は全てテーブル席だった。そこの個室に約束の午後7時より10分前には着いたが、闇屋の親父(吉次)は早くもチビリチビリと酒を飲んでいた。徳治の顔を見て開口一番「金は出来たのかい」と、聞いて来た。「もちろんだよ、意味もなく誰がわざわざやって来るもんかい」と、徳治が小さな風呂敷包みを差し示した。「それよりは、その凄い情報と言うのを先ずは聞かせてくれないか」と、徳治がせかした。「いや、先にその金を拝ませてくれ」と、吉次がニヤついた。仕方なく徳治は風呂敷包みから札束二つを開けて見せた。腕力だったら吉次には負けない自信は十分に持っていた。長年米俵を担ぎ続けて来た体力がある。やすやすと金だけを奪い取られる様なヘマをする訳がない。「おや、ピン札の100円札だ。良いねぇ、ピン札ってのは何時見ても気持ちの良いもんだ」と、吉次は舌舐めずりをした。徳治が持参した百圓札は昭和21年3月1日に発行されたばかりの新札であった。「さあ、それよりも早くその凄い情報と言うのを聞かせてくれないかね」と又、徳治が急き立てた。「まあ急ぐ事もないよ。先ずは一杯やったらどうだい」と妙に落ち着きはらって吉次が答えた。「吉さん、酒より先ずは話が肝腎だ。酒はその後だよ」と、徳治が遣り返した。
明日に続く
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