潮騒は聞こえず(15)

「分かった、分かったよ徳さん。実は少し訳ありな話なんだがね。GHQの将校にちょっとした知り合いがいるんだよ。これが物凄い女好きでね。頼まれて一人向島の芸者上がりの女を紹介したんだ。ニューヨークには女房も子供もいるんだが日本に来て8ヶ月程たっているんだが、どうにもあっちの方が我慢出来ないらしいんだ。時々は町で女漁りはしているみたいだが、Loveがないなんてシャレた事を言い出したんだ。笑わせるじゃないか、女房と子供がいながら何がLoveだい。そうだろうよ徳さん」と、吉次は小鼻をピクつかせながら話し出した。「何たって泣く子も黙るGHQさんだ。それに何かしらの繋がりを持っていれば損はないだろうって俺も考えたんだ。そんな訳でひと骨折ったのよ。小股の切り上がった、それは良い女だ。GHQの黒人野郎にはもったいないくらいの女だよ。そしたら案の定、野郎はすっかり女にのぼせ上がっちまったのよ。女も満更でもなさそうなのよ。何たって黒人であろうと無かろうとGHQだ、欲しい物は何だって手に入るだろう。肉だって酒だってさ。そのあたりにある濁酒(どぶろく)じゃないよ。ジョニー黒とか言う超高級品だ。日本人の誰がそんな酒を飲めるって言うんだい」と、吉次はまるで自分がGHQの将校にでもなったかの様な口調で話を続けた。「それで、その黒人野郎が女を自分のステディにしたいって言い出したのよ」
明日に続く
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