潮騒は聞こえず(16)

「ふ~ん、それでそのGHQの黒人と今回の凄い情報と何の関係があるんだい」、徳治は何時までも本題に入らない吉次の話に少し焦れて来た。「まあ徳さん、そんなに急かすもんじゃないよ、話はこれからじゃないか」吉次は一人で手酌の酒を飲みながら徳治のイラ立った顔を楽しんでいるかの様だった。「つまり、あれだよ。察しが悪いね徳さんも。野郎には女をステディにするだけの金が無いんだよ。たかだか黒人の少尉だ、国には女房も子供もいるんだぜ。そんなに高い給料を貰っている訳も無いだろうし、国に仕送りだって必要だろうよ。何処に日本の女をステディにする金があるんだい。ステディにするともなりゃ家の一軒も借りなきゃならないだろうし、女に呉れてやる小遣いだっているじゃないか。ウィスキーの1、2本やチョコレートぐらいで女が納得する訳もないだろうよ。そこで野郎は一計を案じたのよ。何と軍需物資の横流しを考えたのよ。ちゃちい横流しは何人もの軍人がそれなりにはやっているみたいなんだ。そこに野郎は目を付けたって訳よ。その横流しを信頼出来る日本人と組んで一儲けしたいって算段よ。どうだい徳さん、一口乗ってみる気はあるかい。本当は俺自身がやりたいんだが、俺には元手になる金もなきゃ人手もない。徳さん、そこへ行くとあんたはそれなりの金もあるし使用人もかなりいるし、あんたがやる気にさえなりゃ儲けの大きな仕事になると思うよ。下手すりゃ蔵だって立っちまう話だ」と、吉次は酒の勢いもあって饒舌に語った。徳治は水の一杯も飲まず吉次の話に何時しかのめり込んで行った。
明日に続く
関連記事

コメント