潮騒は聞こえず(17)

チャーリーは36才になっていた。学歴もろくにない黒人の彼が一兵卒から少尉の道にまで這い上がるには並大抵の努力で出来る事ではなかった。ヨークのハーレムには女房と子供がいると言ったって、18、9才ぐらいのヤサグレた時代のイカレた男と女が別に意味も無く、くっ付いて意味も無くガキをひねり出してしまっただけの話だ。愛だとか恋だとか、そんな人に言える様な話は何もない。もちろん結婚式だなんて話はない。俺の周りじゃ結婚式だなんて言葉さえ知らない連中が殆どだ。朝起きたら何故か女が横に寝ていただけの事だ。ヤクで頭がイカレていたんだろう。でも軍隊に無理矢理引っ張られ俺は変わった。「理屈じゃねえ、まごまごしていたらすぐにアーメンだ。俺にゃ何の関係も無い戦争で、何故俺がアーメンにならなきゃならないんだ。ふざけるんじゃねえ、誰がアーメンになるか。たまたま親父もおふくろも黒人であると言うだけで、殆ど奴隷扱いの仕事しか与えられなかった。俺も訳の分からない内に軍隊に引っ張られてしまった。死んでたまるもんか。1944年6月のサイパン、7月のグアム、1945年2月の硫黄島、彼奴ら(日本人)ほどでは無いにしても俺たちの仲間もかなり死んだ。特に黒人の仲間が一番多く死んだ。何時だって最初に死ぬのは俺たち黒人だ。でも俺は死ななかった。そしたら何時の間にか俺は少尉になっていた。勲章って奴も貰ったりした。ともかく死にたくねぇ。その怖さから俺はただメチャクチャに暴れ回った。ジャップをただ殺しまくった。そしたら俺は何時の間にか英雄になっていた。そして少尉さまだ。最もどうしょうもない奴が生き残る様に出来ているのかもしれない、この世ってやつは」と、彼は嘘ぶいていた。
明日に続く
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